サケロック
フィッシュマンズ・トリビュートにも参加した脱力エキゾ軍団の正体
1950年代中盤、東洋と西洋がごった煮になったハワイの文化にヒントを得て、〈エキゾチック・ミュージック〉という概念を確立したマーティン・デニー。YMOが彼の楽曲“Fire Cracker”のカヴァーを発表してから約25年後、そのマーティン・デニーの曲からバンド名を拝借したというインスト・バンド、サケロックがデビューを果たした。
……と、大げさな書き出しではじめてみたものの、サケロックはどうにも掴み所のないバンドだ。音源ではその冠どおりのラウンジ―エキゾ感を確かに感じさせつつも、ライヴでは観客を躍らせるバンド的肉体感も持ち合わせている。論理的構築性を伺わせながら、アウトプットされた楽曲には知識を必要としない娯楽性がある。〈ここ一番〉という時には、スラップスティックでナンセンスなユーモアを忘れない。そして、メンバーの星野源は、今最もチケットを取り難い劇団〈大人計画〉に所属する役者としても知られている。聴けば聴くほど引き込まれるのに、「サケロックってどんなバンド?」と訪ねられると、彼らの多面性ゆえに筆者は言葉に詰ってしまう。
「バンド名をサケロックっていう名前にしたことに意味はなくて、いわゆる〈エキゾチック〉な音楽をやろうという気もないんです。構築的なこともしたいし、ユーモラスなこともしたい。そういう気持ちは確かにあるんですけど、それを考えて練り上げてやっているというわけでもないんです」(星野源、ギター)。
「バンドをはじめた時には今のような音楽を目指していたわけではなくて。思い返すとみんな細野晴臣が好きだったとか、そういう共通点があると思うんですけど、こういう音楽になったのは偶然の産物って感じですね」(伊藤大地、ドラム)。
あくまで淡々と語るメンバーではあるが、イースタン・ユースの吉野寿が推薦文に寄せているように、作品の創作意欲に関しては〈内面的沸点〉の高さも覗かせる。
「あるアーティストが好きで、その作品の部分を真似して曲を作ってしまう人はいっぱいいると思うんですけど、僕らはその人の意気込みとか、その作品を作る過程で使った知恵を真似したいというか……。あくまで技術的な向上よりも、自分の中にあるものを高めて作品を作りたいんです」(星野)。
そんな彼らが4月17日にリリースしたセカンド・ミニ・アルバム『慰安旅行』は、わずか2日間で録音された、ほぼ一発録りの作品。シェイプされた音数の隙間から見え隠れするゆるーいグルーヴからは、メンバーそれぞれが発する、強い〈個〉を感じる。
「アルバムを作る前にキーボードが抜けちゃって、全員の比重が重くなってふっきれたような感じはありました。それで、ごまかしたり、隠したりするのはやめようかな、と」(星野)。
「環境が変化したことによって、今まで成立していたものが成り立たなくなりましたね。だけど、(03年に発売された前作)『YUTA』は、誰も他のメンバーを誘導とか強要しない空気がバンドの中にあったからできた作品だと思っていて、そういうスタンスは今でも変わっていないんです。そういうスタンスだから、これからバンドがどうなっていくのかは誰にもわからない(笑)」(田中馨、ベース)。
「俺らのにとってはやっている感触はあんまり変わらないけど、やっぱりトロンボーンが前に出ている分、『YUTA』を聴いたことのある人には変わったように聴こえるんじゃないかな?」(伊藤)
ここまで会話に登場していない〈ハマケン〉こと浜野謙太(トロンボーン)は、バンドのマスコット的存在。ジャケット写真やオフィシャルサイトに度々登場する〈イイ顔〉や、アルバムに飛び道具的に収録されている〈素人のスキャット〉など、一見罰ゲームのように見えて「ハマケンがいないとサケロックはダメ」(田中)とメンバーに言わしめるほどの重要な役目を負っている。最後に〈サケロックの要〉、ハマケンからの一言を添えておきたい。
「あの、アルバムではトロンボーンすっごい頑張ったんですけど……、一番評価されているのが(ボーナス・トラックに収録されている)“サケロックのテーマ”のスキャットっていうのが、ちょっと悔しいです(笑)」(浜野)。
「フロントが無駄っていうのはいいよね(笑)。でも、無駄が一番大切ですからね」(星野)
『慰安旅行』
1. MAGIC HOUR
2. 慰安旅行(フルレングス試聴♪)
3. GREEN LAND(フルレングス試聴♪)
4. テキカス!
5. DEEP LIVER
6. サケロックのテーマ