ビイドロ
宇宙から届く無重力ポップ? “ハヤビキマスシス”などタワレコ限定シングル3枚が注目を集めるビイドロ。コンポーザー、青柳崇を中心に元くるりの森信行をサポート・ドラマーに擁する彼らが、初フル・アルバム『星の方から』で見せる偏執的モダン・ポップの世界とは?
中央がソングライター/ヴォーカルの青柳崇
息を吹き込みながら、膨らんでゆくガラス玉をくるくる回せば、地球も回り、人生も回る。そして、耳を澄ませば、彼方から飛んでくる透明な音楽もくるくると……。
そんなフリーフォームな無重力ポップスを東京→日本→地球→宇宙へと発信する話題の3人組、ビイドロがタワーレコードで限定発売した3枚のシングルを含むコンピレーション・アルバム『星の方から』を発表する。
「結成は99年でメンバーもいまとは全く違う大学サークルの友達だったんです。僕は卒業してバンドやろうと思ってたのに、みんな留年したり就職したり、これは一緒に出来ないなっていうことになって2年前の秋にメンバーを一新したんです。それ以前、以降で? 自分としては一貫したものをやってるつもりなんですけど、以前は閉じてた気がするし、歪みや音量のデカさとか、どれだけおかしいことが出来るかみたいな、そういうことをわざとやってましたよね」。
そう語るのはソングライター/ヴォーカルの青柳崇。元くるりの森信行をサポート・ドラマーに擁する彼らは、宅録がルーツだという青柳の曲世界をときにバンドで、またあるときは全員がMPCサンプラーを叩いたり、はたまた青柳が全ての楽器を扱う曲があったりと、吹き込まれる曲の息吹に応じて形が自在に変わってゆく。
「もともと僕がバンドをバンドとして意識し始めたのは宅録とバンド・サウンドがごっちゃになってた時期で、イギリスのベータ・バンドとかベックなんかもそうだと思うんですけど、ライヴ・サウンドも愛してるけど同時にコラージュ・ミュージックも好きで、その2つを分け隔てなくステージで再現してる人たちに強く惹かれてたんです。だから自分はギターだからギターだけをやる、みたいな制約は極力排除して下手でもいいからある種の勘違いやおぼつかなさをおもしろさに繋げていくことにはこだわってますよね」。
そんな、ある種の歪さが自然かつ顕著に表れているのが彼の作るメロディと詞だ。
「たとえば“衛生軌道上”っていう曲はTMネットワークのつもりで作ったんです。TMは小学生の頃ファンクラブに入るくらい好きで、いま聴いてもすごいグッと来るしニュー・オーダーを聴くときもTMの幻影を追うように聴いてしまうくらい。でもよくよく聴くとTMの曲ってポップなようであり得ない転調があったり相当にいびつなんですよね。だからその影響は大きいかもしれない」。
テクノロジーを駆使したモダン・ポップスの洗礼を、Y.M.O.でもC-C-Bでもなく、TMネットワークから受けた世代のポップ感というと誤解があるかもしれないが、相当に無意識な領域まで下りて作られているからこそ心に響く大切な何かが、ここにはある。
「詞に関してもそうですよね。このアルバムは……たとえば一日の気分の揺れ動きを自分で追ってもらったらわかると思うんですけど、朝家を出たときは天気がよくて気持ちいいんだけど、駅で電車に乗るとき後ろから来たサラリーマンにガーンって割り込みされて〈ちっ、ぶっ殺してやりてえ〉みたいな瞬間もあったりするじゃないですか? でも世の中の多くの曲は自分が一貫した人間であるっていう視点で曲が書かれていたりして、それってホントにその通りなんだろうかって思ったりするし、もっと生々しいものがあったりするんじゃないの?って。だから僕はそういう気持ちをただ書いているだけであって、逆に僕の歌詞を読んで〈こいつは変態だ!〉って思う人が一番変態だと思うんですけどね(笑)」。
そんな彼らだが、〈初期ビイドロの軌跡&新曲〉という副題が付けられている本作は初期を総括する作品であると同時にこれからの方向性や可能性を示唆しているという意味で、今後の展開を大いに期待させる。
「今回収録した新曲3曲でビイドロ独自のものがようやく出来てきた気がするんです。そういう意味でいまはバンドをやってるという自覚があります。いままでは3人でやっていても僕が弾くフレーズを指定してて、誰が弾いても一緒じゃんとさえ思ってたんです。でもみんなが自発的にやるパーセンテージが高くなりつつあると思うし、僕一人では出せない雰囲気が出せてる。だから……僕の人間的成長? そうですね(笑)。それがまさに反映されて、ビイドロは日々進化していると思います」。