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インタビュー

カセットコンロス


「かっこいい外来語じゃなくて親しみのあるもので、なんか馬力がある感じかなって。あとアルファベットで書いたときに、メキシコあたりの胡散臭さも感じさせるし(笑)」(和田真:以下同)。

 それにしてもなんてショボいバンド名なんだろう……〈日本一ユルいバンド〉なんて言われ方もするし。バンド名を聞いて〈なんじゃそりゃ?〉と思わされ、まるで古いレコードみたいにモコモコガチャガチャしたサウンドを聴いてまた〈なんじゃこりゃ?〉と思わされる。やたらポコポコとせわしない割には可愛いらしいドラムに図太くてファンキーなベース、スウィートでプリティーな表情を見せるホーン隊に、まるで小さな子供のように落ち着き無くちょこちょこと動き回るテナー・ギター。おまけにヴォーカルはウマいんだかヘタなのかもよくわからんデタラメ&トボけた感があって、でも一所懸命歌っているってことはわかる。一人ずつの演奏は結構上手いんじゃないの?って感じでかなりイケてる。が、他では聴くことのできないその土臭いんだけどチャーミングなバンド・サウンドを耳にした途端、有無を言わさず身体中の力が抜けて、自然とユル~い微笑みが顔に浮かんできて、そのイビツなリズムの数々に勝手に気持ち良く揺らされることになる……。昨夏にリリースされたコクありすぎ&激ラフなユルユル極楽盤『カプリソ』や全国各地のイヴェント参加、それに〈スカ~カリプソ〉なムードにもたまたま乗っかって、カセットコンロスはその潔いふっきれたユルさが逆にフレッシュで、〈南の風〉が吹いてくる音楽を鳴らすミュージシャンたちやそんな音楽を愛する者たちにウケまくっている。

「もともとはバーで定期的にやるイヴェントのために、カリプソに日本語の歌詞をつけたのを小さな編成で気楽な感じでやろうと思って近所のミュージシャンを集めて始めたんだけど、みんな全然違うジャンルの音楽が好きだから」──そんな彼らが鳴らすバンド・サウンドは、トリニダードやキューバ、ジャマイカ、ブラジルなどカリブ海周辺から、ブルース、ソウル、ジャズといったアメリカのディープ・サウス、そしてアフリカといったさまざまな土地で育まれたブラック・ミュージックのエッセンスが曲ごとにゴチャーっと混在して溶け込んでいて、原型を留めないほど好き勝手(コンロス流)に料理されている。そんな彼らの新作『パラボラ』(またまたショボいタイトル!)がリリースされた。

「『カプリソ』がけっこう反響をもらったから、もう少し図に乗って、まだ自分のなかにあるいろんな音楽を出しても大丈夫かな、って思えた。『カプリソ』では表現しきれなかったことがいっぱいあるし、メンバーそれぞれも成長してるし、バンドとしての振れ幅も大きくできるようになってきてるから、そこをもっと出そうかな、と」。

 独特のうねりを聴かせる一発録音や、適度ないい加減さやモコモコしてオモシロ可笑しさ溢れるサウンドは『カプリソ』と同様だが、より親しみやすさ、キャッチー&キュートさが増しているように思える。それはヤケにグッとくる切ない歌詞やそれに伴うグッドなメロディー、つまりどの曲においても歌が前面に出ているからだろう。

「歌詞とメロディーがあればいいじゃん。究極はそこなんだろうなって実感するようになって。そこを伝えるためにどうアレンジするかってところをメンバーそれぞれが思いっきり楽しんでる。あと、抽象的なことをぼんやり描くだけじゃなくて、もっとエグい、〈男と女のああだこうだを描くのが歌詞的には黒いんじゃないの〉って知り合いに言われたりして。〈もっとセックスだよ、和田くん〉って。そんで〈なぁ~るほどねぇ〉って思ったところもあった(笑)」。

 つまりジャンル名としてではなく〈ソウル・ミュージック〉と呼びたい、心に楽しく強く激しく訴えかけてくるところが『パラボラ』のたまらない魅力といえるだろう。音楽は手に取ることができるモノではなく、最終的には聴いた人がどう心を揺さぶられたのか、という印象や感覚の記憶に存在し続けるモノとして捉えるとしたら、「時代に対してド真ん中の考え方のやつがひとりもメンバーにいないんだもん。そりゃおかしいだろ、って。それをみんなでド真ん中に持っていけないものかと思ってるっていうのはどうなのよ、っていう(笑)」と冗談交じりに彼は言っていたが、「巡り巡ってコンロスが最先端」というさりげない呟きは、ひょっとしたら鋭く現在の真実のひとつを言い得ているのかもしれない。なぁ~んてちょっとマジなことを思わせたりもするステキにショボいバンドです。

PROFILE

カセットコンロス
和田真(ヴォーカル/テナー・ギター)と福家敏雄(ドラムス)が2000年に出会ったことを発端として、前原茂晴(ベース)と安藤健二郎(テナー・サックス)、山上一美(アルト・サックス/フルート)が加わって結成される。2001年4月にコンピ『SIMPLEST PLEASURES FREE』に参加した後、同年9月にはデビュー・アルバム『CASSETTE CON-LOS』を、2003年にはセカンド・アルバム『カプリソ』をリリース。そのラフで陽気なライヴ・パフォーマンスと共にジワジワと人気を集めるようになる。また今年の4月にはフィッシュマンズのトリビュート盤『SWEET DREAMS for fishmans』に参加したことも話題となった。このたび、ニュー・アルバム『パラボラ』(basis)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年08月19日 15:00

更新: 2004年08月19日 23:29

ソース: 『bounce』 256号(2004/7/25)

文/ダイサク・ジョビン