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インタビュー

Dizzee Rascal


「前のはディジー・ラスカルのさわりだと思ってほしい。あの作品はわかってくれる人とそうでない人がいたけど、今回はオレに引き出しがあることを追求したかった」。

〈前の〉とは、もちろんディジー・ラスカルのファースト・アルバム『Boy In Da Corner』(日本盤もリリースされたばかり!)のこと。あれが〈さわり〉って! 同作は2003年を代表するエッジーかつエンターテインな傑作で、本国UKはもちろんユーロ全域、さらには大西洋を横断しても高い評価を得た、どんなに過小評価しようとも歴史に残ってしまうようなアルバムなのだが。

 一方、史上最年少で〈マーキュリー・プライズ〉を獲得するというトピックもあって、ディジーは単なるひとりのラッパーとしての枠を越え、いまやカルチャーを巻き込んだ新世代のストリート・ヒーローに祭り上げられた存在でもある。が、そんな状況に対してディジー自身は「〈彼はこうであるべき〉みたいな、意味もない固定概念を押し付けられる最悪の機会がすごく増えた」と吐き捨て、さらにはUKのストリート・ミュージック~ガラージ・カルチャーを代表する存在と捉えられることに対しても、注意深く釘を刺す。

「オレはいままで一度もガラージ・トラックを作ろうと意識して曲を書いたことはない。構造的にはもっとコンプレックスなものだと思ってるよ。オレはオレのスタイルや音楽にこだわっていたいだけで、ストリート・シーンを背負って世の中に伝えたいとか、そういう気持ちはないんだ。オレはたまたまロンドン生まれでストリート・ライフを経験しているから、そういう要素も自然と楽曲に入ってくるけど、あくまでも自分のスタイルの追求をしたいんだよ」。

 周りが騒がしくなろうとも、ディジーはそうやって自身の音楽そのものにフォーカスし続けてきたのだ(何と前作が完成した次の日からもう制作に取りかかっていたのだという)。その結果、前作からおよそ1年、ディジーは早くも次なる弾丸――セカンド・アルバムを装填し終えた。タイトルはシンプルに『Showtime』。今度はどんなショウをブチかますつもり?

「予測不可能で、刺激的で、ライヴ感があるショウタイムさ! 前の作品では見せなかったキャパシティーを出したということもあるし、もっとエンターテイメントな側面も見せたかったんだ」。

 まさに! 『Showtime』はその言葉どおり、さらに振り切れたアイデアをもっと大胆に導入して、いっそうラフに組み立てられたような印象を受ける。『Boy In Da Corner』が評価されたからこそ、もっと好き勝手に思いきったことができたんじゃないか、とも思うのだが。

「ああ。苦労して意識した変化やこだわりをわかってくれる人がいるのは嬉しいよ。今回いちばんプレッシャーだったのは、前作に毛が生えたような作品にしないための自分との戦いだったんだ。オリジナリティーを失わずに、新しいアイデアをいかに出せるか、っていう。前は音楽だけに集中できたけど、今回はそうじゃなかったしな。同じようなことをやるのはラクだけど、フレッシュでいることがいちばん難しいよ」。

 が、ディジーはその難関を見事に突破した。グライミーなガラージ・ブレイクス“Stand Up Tall”(〈フジロック〉でも盛り上がってた)のようなキャッチーなダンス・チューンや、奇矯なサンプルが飛び交うマッシヴなバウンス、さらには映画「南太平洋」のスコアを引用したハッピーな雰囲気の“Dream”や、女声を配した初の歌モノ“Get By”など、一聴して新しいトライもある。自身のゴールを「続けること。音楽は自分がいちばん魂を込められるものだから、無我夢中で続けることだね」と語るだけあって、ディジーは進化も深化もやめるつもりはないようだ。この後も「しばらくツアーが続くし、フェスも多く控えてる。でも、もう音作りは始めてるよ。また新しいチャレンジに向けて進んでるのさ」。

 本当にディジーのショウタイムは、まだまだ〈さわり〉なのかもしれない。そう思わせるだけの不敵なサムシングと、恐ろしいほどの底知れなさが、彼にはある。こればかりは文字にできないが、驚異的にフレッシュな『Showtime』を聴けばその予感は共有してもらえるに違いない。

PROFILE

ディジー・ラスカル
東ロンドン出身の19歳。入退学を繰り返す荒んだ少年時代を送るが、ある音楽教師の導きで曲作りに開眼し、やがてアンダーグラウンドでMC活動を開始する。ホワイト盤のリリースやモア・ファイア・クルーのプロデュースなどを通じて徐々に注目を集め、2003年5月に“I Luv U”でデビュー。7月にファースト・アルバム『Boy In Da Corner』をリリースし、直後に〈マーキュリー・プライズ〉の最優秀賞を受賞。前後してベースメント・ジャックスの“Lucky Star”にも客演している。2004年に入ってマタドールよりUSデビューを果たし、N.E.R.D.らとUSツアーも敢行。7月に〈フジロック〉出演のため初来日。9月15日にセカンド・アルバム『Showtime』(XL/ソニー)がリリースされる予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年09月02日 17:00

更新: 2004年09月02日 17:54

ソース: 『bounce』 257号(2004/8/25)

文/出嶌 孝次