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インタビュー

湯川潮音

天使の歌声を持つ若きシンガー・ソングライターのファースト・フル・アルバム!


 都会の喧噪から逃れるように、ふと飛び込んだ教会の匂いとでも言おうか。湯川潮音のファースト・フル・アルバム『逆上がりの国』には、そんな空気が立ちこめている。声から溢れる清らかさ、そして強さ共に、まさに類い希なるものだと断言したい。そんな彼女は、ようやく20歳になったばかり。ただ、「何かのミュージカルを観て合唱というものが気になり出して。それで小学校4年生の時、オーディションを受けて合唱団に入った」というわけで、〈歌う〉ことにおいてのキャリアは短くない。とはいえ、シンガー・ソングライターと合唱団は似て非なるもので、そのシフト・チェンジというか、志の経緯を訊ねてみると……。

「〈歌で食べていくぞ〉という考えもなかったし、自分ではそういうことを意識はしたことないかも(笑)。何でも、決心してここまできたわけではなくて、自然な流れで心の赴くままにやっただけなんです。ただ、合唱という形でみんなとやってきたので、今度はひとりで歌ってみたいと思って。そしてひとりで歌っていると、今度はバンドがやってみたくなる……いろんなことをやってみたいので」。

 彼女の佇まい、本作を一聴した際の耳触りだけで判断すれば、湯川潮音というシンガーは、あらゆる柔軟な成分をブレンドして、リスナーの肩肘を和らげるオーガニックな天然素材のように写るかもしれない。けれど、ひとたび彼女が綴った詞世界に耳を傾けてみれば、幻影していた世界は一変し、特有の気韻が感じられる。

「核にある部分は〈自分〉であって、そのなかにあるいろんな要素をできるだけ忠実に音に、妥協なく形にしていくことが大事で。自然の大きな力のなかに、小さくいる自分……小さくても生きている、というのをよく感じていて。歌詞を書くときに思っていることは、ひとつに限定しちゃうんじゃなくて、いろんな側面から見てまた違う解釈ができるような、そういう豊かな表現を、歌詞だけじゃなくて、豊かな広がりのある音楽……というものを求めていています」。

 本作のプロデュースを務めた鈴木惣一朗をはじめ、レコーディングに参加した高田漣、青柳拓次については、「楽器のことに関しても、〈陰〉じゃないこだわり方というか、そういう人柄もすべて音に出ているのが魅力的。一族になれて良かったなあ」と話す彼女。「バンドもやってみたい」と意欲的ではあるけれど、さて、それはどんなバンドなのだろう?

「たとえばキッスみたいなメタル(笑)。違うことをやることによって、釣り合いがとれるんじゃないでしょうか。だから……昼は教会で、夜はキッスで(笑)」。

▼湯川潮音の作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年09月02日 13:00

更新: 2004年09月02日 13:29

ソース: 『bounce』 257号(2004/8/25)

文/立野 幸恵