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インタビュー

Utada...What the world's waitin' for!

ひとりの新人アーティストが、日本から世界に羽ばたいていく……
その名はUtada。そう、彼女がついに全米デビューを果たしたのだ!!



 いったいアメリカのミュージック・シーンで〈Utadaの音楽〉がどんなふうに受け止められるのだろうと想像するだけでワクワクする。作詞、作曲、アレンジをみずからが手掛けるこのニュー・アーティストは、アメリカと日本の両方の文化も言語も十分に知っている。もちろん、とてつもなく大きなマーケットのなかでは、いくら日本でトップにいる宇多田ヒカルとはいえ、そうたやすくビッグネームになれるなんて思っちゃいない。だけど、この第一歩がなければ何も始まりはしないのだ。

 10月5日、アルバム『EXODUS』が全米でリリースされる。Utadaの記念すべき全米デビュー作は、日本のリスナーにとっても〈新しい彼女〉を知る作品だと思う。

「国にせよ、環境にせよ、職場にせよ、自分が絶対にわからないのは、ひとつの状況にいるとそこにどれくらい自分が慣れちゃってるかってこと。自分がここに甘んじてると思わなくても、自分は誰よりも自分に厳しいんだからって思ってても、同じ場所で同じ時間を何回も繰り返すことによって、慣れとかスレてくる所とかがだんだんわかんなくなっちゃってると思うんだよね。でも、〈よし! 今ここをちょっと移動して別の場所に行くぞ〉とか〈新しいことを試してみるぞ〉ってホントにその気があったら新しい環境に飛び込める。そして、その時に初めて前の場所にいた自分がどうなっていたかがわかる。それをやらなきゃ絶対に気がつかなかったことがわかるんだよね」。

 このUtadaの発言は『EXODUS』に関する取材時のものだ。しかし、彼女はいままでだって常に新しいことにチャレンジし、自分の音楽を成長させてきた。たとえばデビュー当時の彼女は作詞作曲を手掛けてはいたが、アレンジはまだ行ってはいなかった。作品を作り続けるうちに彼女はアレンジも手掛けるようになり、自分から生まれてくる音楽のイメージをもっと具体的に形にするようになった。また、プロデューサーやミュージシャンなど外部からの刺激も柔軟に受け入れ、自由度の高い音楽を作り上げてきた。そう、だからこそ彼女は〈全米デビューするUtadaとして何ができるのか〉に立ち向かっていったんだと思う。

「自分が成長してたらさ、自分の周りの環境を変えていかないと、やっぱり釣り合いが取れなくなってくると思った」。

 でも、別に彼女は〈日本〉を捨てて、〈アメリカ〉に行ったわけじゃない。彼女は幼い頃からアメリカと日本を行き来し、両国の文化も言語も十分に知っている。彼女が育ってきた環境からしてみれば、アメリカという国は決して特別な場所ではないのだから。

「そういった意味で言えばさ、ホント〈Utada〉と〈宇多田ヒカル〉はまったく区別してない。区別するようなもんじゃないし、どんなふうに区別するんだ!?って感じ(笑)」。

 英語詞だからこそ表現できることを思いっきり楽しんだり、初めてギターで作曲したり、ティンバランドとやりとりしながらいっしょに曲を作り上げたり、と〈新しい環境〉は〈新しい彼女の音楽〉を生んだ。

「ティンバランドとやろうというのは最初から決めてたわけじゃないのね。最後の最後のほう、すでにほとんどの曲が出来てる段階で自分の音の全体像が見えてきた頃に、彼にリミックスっぽくやってもらったらいいかもなあと思った曲があって……。それが“Wonder 'Bout”でも作業をしてるうちに、ここ(彼の本拠地であるマイアミ)まで来たんだから絶対に何か残さなきゃダメだよ! ここで何かやらないと女がすたるぜ!って気分になっちゃって。周りからは、〈彼のやり方じゃ、いつもヒカルがやってるようなじっくりと時間をかけて作り込んでいく感じじゃなくなるよ〉って言われたんだけど、やんなきゃダメだよ!!って強く思ったんだ」。

 ティンバランドはしっかりと自分のチームを作って、作詞や作曲や歌い方の指導など、ほとんどすべての作業をそのチームで行う。しかし、Utadaはそのチームに飛び込むのではなく、それぞれの作業を行い、お互いに作った音を聴かせ合いながら〈ひとつのもの〉を作り上げていった。

「彼のやり方はすでに確立してるんだけど、私は〈自分で作詞や作曲をするんで他の人のやつは歌わないんですよぉ~〉なんて言って(笑)。いやぁ~、彼も最初は〈じゃあ何でオレなんだ!?〉って思ったんじゃないかなぁ(苦笑)。でもね、作業をしていくうちに〈おまえはすごくイイ!! カッコイイ!!〉って言ってくれて。たぶん、そういうふうにいままで彼の仕事のスタイルを変えさせた人ってあまりいないと思うの。でも、私は彼の音からアイデアをもらったり、私の音から彼のアイデアが生まれたりして……。ちゃんとひとつの曲のなかにティンバランドと私がいるんだ。ま、完成するまでは別々のスタジオにこもっては作り、聴かせられるまでちょっと待っててよって言い合いながら、まるで本番でしか顔を合わせない漫才師みたいだったんだけどさ(笑)」。

 彼女自身がいままで出逢ったことのない新しい自分の音楽に心をときめかせている。いままでやってきたことに自信を持ち、かといって同じことは繰り返さずに、常に前を向いて歩いている。そしてアメリカのリスナーたちにも、そんな彼女の生き方が反映された『EXODUS』のチャレンジ精神がきっと受け入れられると私は信じている。

Utada
『EXODUS』

Island/ユニバーサル

9月8日に日本先行リリース決定!! リード曲“Easy Breezy”をはじめ、“Devil Inside”“Kremilin Dusk”“EXODUS '04”……ほか全14曲を収録しています!!

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年09月09日 16:00

更新: 2004年09月09日 17:29

ソース: 『bounce』 257号(2004/8/25)

文/松浦 靖恵