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インタビュー

The Black Keys


 不動産屋に雇われて、トラックを運転しながら芝刈りをしていた2人の若者、ダン・オーバックとパトリック・カーネイ。ハイスクール時代からつるんでいて、それが縁でバンドを組むことになった2人は、ある日一大決心をする。仕事を辞めて、ツアーに出よう! それがブラック・キーズのささやかで、力強い第一歩だった。

「スクラップ工場の庭で芝刈りをしてたとき、芝刈り機が鉄の破片を吸い込んだんだ。で、その破片が俺の股間を直撃。スゲー焦ったよ。ま、大丈夫だったみたいだけど(笑)」(パトリック・カーネイ:以下同)。

 股間への刺激が音楽活動への情熱を燃え上がらせたのか、ファースト・アルバム『The Big Come Up』と、股間を刺激する(しつこい)情熱的なライヴが人気を呼び、一躍シーンの注目を浴びるようになった彼ら。もはや失業問題に悩まされることもなく、万全の体制で作られたのがニュー・アルバム『Rubber Factory』というわけだ。とにかく、やたらうるさいブルージーなギターとルーズに叩きまくるドラム。互いが吠えあって一歩も引かないブルース・ロックは、近所迷惑もいいところ。

「最低だったのは、ラヴァーボーイっていう、ものすごくダサいバンドの持ち物だったミキシング・キーボードが、レコーディングの前日に壊れたこと。でも最高だったのは、レコーディングした音源をコンピュータでミックスしたら、とても上手くいったってことかな。今回はとにかく全体の流れが好きなんだ。やっと一つのまとまりある作品が出来たって感じさ」。

 そういえば彼らは最近、元タイヤ工場の2階に自分たちのスタジオを作ったのだとか。そのあたりに新作の鍵があるのかも。

「建物自体もそうだけど、吐き気がするほど汚いスタジオさ。ひととおり揃えた機材もまだ使い方がわからないし、使いモノにならないジャンクな機材ばかり。でも、それがオレたちのサウンドの秘密かもね。少なくともダンのギターには大きく影響してる。壊れたギター・アンプばかりだから、アンプが熱くなりすぎて、すぐにヒューズが飛んじゃうんだ。そうそう、ラヴァーボーイのミキシング・キーボードも直して置いてあるよ(笑)」。

 そんなこんなで、ネズミが飛び出してきそうなポンコツ・サウンドは生活感丸出し。だからこそ醸し出されるダウンホームな感触が、彼らの魅力なんだろう。

「“10 A.M. Automatic”や“All Hands Against His Own”は結構こだわったかな。でも細かい部分にまで気を遣いすぎたところもあって。それぞれ6テイクくらい録ったけど、最後にはうんざりして最後のテイクを使ったよ」。

 頑張ってるんだか投げやりなんだかよくわからないけれど、そんな紆余曲折が、ちゃんと呼吸しているロックンロールとして表現されているのが、このアルバムのカッコ良さじゃないだろうか。ちなみに彼らが生活するオハイオ州アクロンといえば、ディーヴォ生誕の地。訊けばパトリックは「昔から彼らの大ファンさ! 今俺が住んでるアパートはディーヴォのメンバーが昔住んでたんだ。15歳の頃がディーヴォで、16歳の頃はペイヴメント、17歳の頃はモデスト・マウス……っていうふうにフェイヴァリットは変わっていった」とのこと。こうしたオルタナティヴな血とブルースの精神が混ざり合った彼らだからこそ、見せかけのレイドバックはせず、大股で前進し続けるのだ。

「ブラック・キーズ(黒い鍵)とは、地球の中心にある恐竜世界へ通じる渦への扉を開ける鍵なのさ。いまだに誰も発見してないけどね、俺たちでさえも。俺たちはその失われた黒い鍵の行方を探しているんだ」。

 そしてその手掛かりは、この怪しげな〈ゴム工場〉の中にある。たんまりとね。

PROFILE

ブラック・キーズ
ダン・オーバック(ヴォーカル/ギター)とパトリック・カーネイ(ドラムス)によるオハイオ出身のロック・バンド。少年時代からブルースに親しんできた彼らは、ハイスクール時代よりセッションをするようになる。2001年8月にはブラック・キーズを結成し、翌2002年にはデビュー・アルバム『The Big Come Up』を発表、「MOJO」や「Rolling Stone」などの専門誌から高い評価を受ける。2003年にはセカンド『Thickfreakness』をリリースし、収録曲“Set You Free”が映画「スクール・オブ・ロック」のサントラに起用されるなど、彼らの認知をさらに拡げるトピックとなった。先ごろ通算3作目となるニュー・アルバム『Rubber Factory』(Epitaph/ソニー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年09月30日 16:00

更新: 2004年09月30日 18:28

ソース: 『bounce』 258号(2004/9/25)

文/村尾 泰郎