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インタビュー

Rupee


「俺のことを新人だと思っている人もたくさんいると思うけど、幸運なことに実はもう5年くらいソカのシーンを賑わしてきたんだ。ソカじゃトップ・アーティストのひとりと見なされているんだよ」。

 そう話すのは、このたび新作『1 On 1』でインターナショナル・デビューを飾るルピー。アトランティックから世界デビューしたソカ・アーティストということでケヴィン・リトルと比較されがちな彼ではあるけど、シーンにおけるキャリアに関してはルピーのほうが断然上。ソカ・シーンからの期待をしっかりと受け止めつつ、いまや〈ソカのニュー・スター〉として世界のド真ん中に飛び出そうとしている。そんなルピーだが、彼の出身はカリブではない。

「父親がバルバドス出身の黒人で、母親はドイツの白人。俺の出身はドイツだよ。父親がイギリスの軍隊に入ってたから、ドイツとかイギリスとかバルバドスとか、各地を転々としてた。混血っていうこととか、いろいろな土地で幼年期を過ごしたことからは大きな影響を受けているよ」。

 ラッパーをしていた兄弟の影響もあってマイクを握り始めたルピーは、93年にとあるオーディションで優勝してから本格的なアーティスト活動を開始する。その後バルバドスの人気バンド、コアリシュンに参加し(「バルバドスではかなりの人気だったよ。残念なことにもう存在しないんだけどね」)、数々のビッグ・ヒットにも関与。ソロになってからも2000年の“Jump”をはじめとする多くのヒット曲を放ち、いまやルピーは誰もが疑わない〈ソカの顔〉のひとりである。昨年にはカリブの夜の匂いが充満したスムースなメロウ・チューン“Tempted To Touch”がダンスホール・シーンにも跨がるクロスオーヴァー・ヒットを記録。この曲で彼の存在を知った日本のレゲエ・ファンも少なくないはずだ。『1 On 1』の冒頭をセクシーに飾るこの曲が象徴するように、収録楽曲のなかにはロマンティックな色気を匂わすものが多い。そんな魅力がルピーの少し憂いを帯びた歌声と合わさることによってどこか影のある表情を生んでいるところも今作の魅力だ。

「俺は女性を大事に思っている。それは自分の母親がとても辛い人生を送ってきて、不幸なことに、父親に虐待される姿をずっと目にしてきたことも関係しているんだ。そのうち父親から感染したHIVウィルスで彼女は他界してし
まった。だから、女性をどう扱うべきか、っていうよりもどう扱わないべきか、ということを学んできたんだ」。

 そんな姿勢も真摯に反映されたリリック、ソカのスパイスを効かせながらR&Bやダンスホールの色合いを濃厚に塗り込めたサウンド。そして『1 On 1』のもうひとつの魅力は、シンガーだけでなくシング・ジェイ/DJスタイルも自在にこなすルピーのキャパシティーの広さだ。

「俺のバックグラウンドにはダンスホールがあるからね。エレファント・マンとかショーン・ポールみたいなチャンティングもできるよ。それがもともと俺のスタイルだったから。ダンスホールとソカの境界線が曖昧な人もいるけど、実際はそこまできっちりとした線引きがあるものではないかな、とは思う」。

 あらゆる音楽が混在し、独自のフォルムを築いている現在の音楽シーン。もちろんソカもそのなかで新たな進化を遂げようとしている。その意味で、これまでカリブのローカル・ミュージックでしかなかったソカに現在注目が集まっているのはごく自然なことだ。そのなかでルピーも自身の役割を強く認識している。

「ソカの世界では大きなムーヴメントが起きている。若者が主体のヒップでトレンディーなムーヴメントだよ。ソカは今始まったばかりなんだ。だから俺やケヴィン・リトルみたいなアーティストたちが架け橋になって育てていくしかない。そのうちTVをつけたらソカ・ミュージックのもっともピュアなものが普通に流れているような環境になったらいいね。ソカのピュアリストたちからは、ケヴィンや俺の音楽はソカじゃない、っていうバッシングを受けたりすることもあるけど、これはやっぱりソカなんだ。俺たちのやっていることは必要不可欠なことだよ。世界にソカの本質を見せるための段階としてね」。

PROFILE

ルピー
75年9月10日、ドイツ生まれ。ヨーロッパ各地での生活を経験後、10歳のときにカリブ海に浮かぶ小島、バルバドス島へ移住。93年に行われたタレント・オーディションで優勝してアーティスト活動を開始する。その後、バルバドスの人気グループ、コアリシュンに参加し、2002年には『Leave A Message』でソロ・デビュー。翌年にはセカンド・アルバム『Thisisrupee.com』をリリースし、カリブ地域での人気を決定的なものとする。また、同作に収録された“Tempted To Touch”がレゲエ・コンピ・シリーズ『Strictly The Best Volume 31』に収録され、その支持層を拡げる。このたび世界デビュー作となるニュー・アルバム『1 On 1』(Atlantic/ワーナー)の日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年10月28日 16:00

更新: 2004年10月28日 17:56

ソース: 『bounce』 259号(2004/10/25)

文/達磨 剣