インタビュー

UN


 リーダーが何らかの理由でバンドを去り、その後残されたメンバーが奮起し、バンドは成功を収めていく。ロックの歴史をひも解くと、得てしてそういったエピソードに出会うことがある。日本のロック・シーンにその名を残すザ・ルースターズ。それを結成した大江慎也。彼もまた、バンドを離れ、やがてシーンから姿を消していった1人である。その残された作品の輝きは失われることなく、それどころか俄然輝きを増した。人々の記憶のなかで増幅され、いつしか彼の存在は伝説として語られるようになっていた。

 しかしストーリーはそこで終わらなかった。2003年、春。音楽シーンから離れていた彼が、元ザ・ルースターズの盟友たちが結成したバンド、ROCK'N'ROLL GYPSIESのアルバムへ歌詞を提供し、さらにはライヴに飛び入りと、伝説の封印は解かれたのだ。そして彼は、新バンドUN(アン)を結成し、ふたたび音楽活動をスタート。ギターは元ザ・ロッカーズの鶴川仁美(映画「爆裂都市」のバトルロッカーズか!?)、ベースに小串謙一、ドラムは元サンハウスの坂田紳一という、めんたいオールスターズの様相で。

「また音楽をするという気持ちが自分のなかにあって、その単純な発想から始まってますね。これは自分が生きてくうえでの経過点です」(大江慎也:以下同)。

 九州でのデビュー・ライヴ、インドア・フェス〈MAGIC ROCK OUT〉への出演など、数々のライヴを経て、そしてついにファースト・アルバム『KNEW BUT DID NOT KNOW』を完成させたのだ。

「スタジオに入って僕が黙ってギター弾いてるんで、メンバーは困ったみたいですね(笑)。その時はストレートな気持ちでしたから、発想が単純でストレートだったんで、そのままの音をストレートに録れたらっていう思いがあったんで。時間をかけるから良いものができるとは思ってないですからね。もちろんそういう時もあるけど、僕のその時の考えでは、バッとやった方が良いんじゃないかと。自分はヴォーカルのテンション上がり過ぎちゃったりもしたんですけど」。

 UNのサウンドにザ・ルースターズの影を求めたい気持ちもわかる。しかし彼は、過去とは別の新たな道を歩き始めたのだ。そこにあるのはシンプルなロックンロール。パンク的な爆発力もあれば、サイケな雰囲気のナンバーもパブ・ロック的なナンバーもある。そのサウンドには、フレッシュさや生々しさ、力強さが詰まっている。そして、しっかりと言葉を吐き出すように歌う、年輪を重ねたヴォーカルが、また良い味を出している。英語がメインで、1フレーズだけ出てくる日本語というスタイルもまた鮮烈。歌詞からも、今を踏まえ、ここから先に進んでいくというポジティヴさ、活き活きとした躍動感を感じることができるのだ。

「頭に浮かんできたのが英語だったんで、日本語がパッと出たのをそのまま書いていって、自分が考えた歌、曲というスタイルにしたかったんです。発想のもとは凄い単純でストレートですけど、でも、こっちの自分とあっちの自分とが混在することがよくあると思ってて、歌詞ではそういう僕の一側面が出てると思います。時々作っている時に、楽曲にずっと入ってしまう時があるんですよ。没頭した時に、錯覚するんですね、自分のすべてがここにあると。でも違うんです。これは作品ですから」。

 今夏の〈フジロック〉では、ザ・ルースターズ解散ライヴを行い、自身の過去にひとつ決着を付けた大江。彼は、伝説の男ではなく、UNとして前進していく一人のアーティストとしてふたたびスタートを切ったのだ。果たして彼は、今という瞬間をどう捉えているのだろう。

「はっきり言って今は充足感を感じたいという、アーティストとしての気持ちがありますね。きっと年齢のせいもあるんでしょう。ザ・ルースターズという凄く長い歴史と比べたら、ほんの短い期間ですけどね、充足感を感じたいです。凄く良いと思います。音楽として昇華していくものなら、そういうものとして聴いてほしいですね。作品として聴いてほしいです」。

PROFILE

UN
2003年10月、福岡にて結成。メンバーは、今年の〈フジロック〉で一夜限りの再結成ライヴを披露した元ザ・ルースターズの大江慎也(ヴォーカル/ギター)を中心に、元ザ・ロッカーズの鶴川仁美(ギター)、小串謙一(ベース)、元サンハウスの坂田紳一(ドラムス)の4人組。今年に入り、福岡で行われたライヴ〈Sheena & The Rokkets HAPPY 25th ANNIVERSARY〉や東京/大阪で行われた〈Taboo〉〈MAGIC ROCK OUT〉などのイヴェントに出演し集まったオーディエンスを熱狂させる。そして5月には福岡にて初ワンマン・ライヴも敢行。このたび、初音源となるファースト・アルバム『KNEW BUT DID NOT KNOW』(コロムビア)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年10月28日 16:00

更新: 2004年10月28日 17:56

ソース: 『bounce』 259号(2004/10/25)

文/土屋 恵介