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インタビュー

KREVA


 KICK THE CAN CREW活動休止後、駆け足でソロ・アルバムにまで辿り着いたKREVA。「1人になったら、メンバーの遅刻がなくていいですね(笑)」と冗談めかすクレヴァーな〈新人〉は、そもそも活動休止を受けてのソロ活動ではないと認める。

「順序的には、“音色”とか“希望の炎”が去年の7月ぐらいには出来てて、それがあったから活動休止っていう流れになった部分もあるんですよ」。

 昨秋から怒濤のリリース・ラッシュをかけていたKICKの作品も作りつつ、今年の3月には今回のソロ・アルバム『新人クレバ』を完成させていたというから、エラいワーカホリックぶりだ。で、〈そうさ俺は最低の人間〉と歌い出す“希望の炎”や、音との戯れを恋愛になぞらえた“音色”などパーソナルな肌合いのシングルが続いたので、凄く内省的なアルバムになるのでは、という予感もあったものの、それは半分ハズレ。クラップ主体のビートに低空飛行のフロウが滑り込む“DAN DA DAN”やダンスホール気分の“お祭りクレバ”など、楽しげなパーティー・ヴァイブに溢れた曲も際立っている。本人も「時間はかけてない」と認める、迷いなく余裕のあるサウンドは、何ともモテそうで小憎らしいイマっぽさに満ちている。

「嬉しいですね(笑)。まあ、後から気付いたんだけど、グループでやれてなかったことをやってる気がします。結果的に自分に向けてる側面も強くなりましたね」。

 ゲスト陣の的確な起用も、作品のバランスを巧みに舵取りする要素のひとつだ。

「Mummy-DとNG HEADは、自分がアルバム作るんだったら絶対入っててほしいと思ってた人ですね。CUE ZEROに関しては、やっぱ同じ熱さでヒップホップに接することができるし、ホント……ソウル・ブラザー(笑)じゃないけどそんな感じ」。

 加えて、SONOMIにBonnie Pink、KANA(THC!)ら女性陣の伸びやかな歌声も素晴らしい。まるでトラックの心地良さに惹かれて自然に口が開いたような感じだ。そのように、内省とパーティー感、なごみと向こう見ずがいい塩梅で同居した雰囲気はかつてBY PHAR THE DOPESTが漂わせていたものにも近い気がしたのだが。

「おお。実はオレもアルバム作り終えて〈そうかも〉と思って、ずっと聴いてなかったBY PHARのアルバムを聴きましたもん。そしたら近い気分だったんですよね」。

 それは、かつて名曲“PARTY(現実)”で描かれていたような日常をいまだにKREVAが送っていることの証拠でもある。だから、あえて言うと〈KICKはあえて聴かなかった〉という耳にもスムーズに忍び込むはずだ。

「うん。もちろんKICKのファンの人が聴いてくれるのも信じてるけど、いままで無視してた人でも引っ掛かるはずだし、“音色”で初めてオレを知った人でもいいし」。

 つまり『新人クレバ』という人を食ったようなタイトルの真意はそこにあるのだろう……が、KREVAには忘れ難いキャリアがたくさんある。例えば〈MCバトル三連覇〉という実績はその最たるものだ。

「アルバムを宇多丸師匠に聴かせたら〈作りたいように作ってもポップな部分が出るんだね〉って言われて、確かにそうで。だから、〈三連覇〉とかいう部分だけを信じてくれてるリスナーにすれば違うんでしょうね。でも、もともとオレはそれだけじゃねえし、最初の“Dr.K”を聴けば気付いてもらえると思うんですけどね(笑)」。

 他の曲のメロディアスなラップとはあえて一線を画したのであろう、あのライミングが斬り込んでくるその“Dr.K”では〈擦れオレ/BEATもオレ/RAPもオレ〉と不敵に言い放つ彼。じゃあ、そのなかで仮にひとつを選ばなきゃいけないとしたら……回答は予想どおり。

「うん。トラックですね。オレはトラックがあってメロディーとかリリックが浮かんでくるんで、オレの最初の表現っていう感じなんです。それだけ聴いててもオレは凄く楽しいし。曲を作るのは本当に好きで、〈今夜は好きなゲームをとことんやるよ〉みたいな雰囲気に似てるんですよね」。

 というわけで、ワーカホリックというよりは、“音色”のリリックさながらの音との戯れを彼は続けている。しまいには、「アルバムの核になりそうな曲が出来てるから安心」なんて次のアルバムの話まで。まったく、なんて新人だ!

PROFILE

KREVA
神奈川出身。CUE(現CUEZERO)と共にBY PHAR THE DOPESTを結成し、97年にシングル“切り札のカード”でデビュー。翌年のアルバム『BY PHAR THE DOPEST』が高い評価を集める。97年よりKICK THE CAN CREWの活動も並行させ、活動休止まで4枚のオリジナル・アルバムをリリース。また、〈BBOY PARK〉のMCバトルにおいて99年より三連覇を達成し、バトルMCとしての評価を確固たるものにする一方、プロデューサー/リミキサーとしても多方面で活躍。2004年、ソロ・デビュー・シングル“希望の炎”をリリース。“音色”“ひとりじゃないのよ”と順調にリリースを重ね、11月3日に初のソロ・アルバム『新人クレバ』(KnifeEdge/ポニーキャニオン)がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年11月04日 13:00

更新: 2004年11月25日 18:53

ソース: 『bounce』 259号(2004/10/25)

文/出嶌 孝次