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インタビュー

Fya


 バングラ×ダンスホール的なトラックに乗って、どう考えても売れないほうがおかしい!!といった感じのキャッチーなメロディーがコロコロと転がる“Must Be Love”をUKチャートのトップ20に送りこみ、幸先のいいデビューを飾った3人組、ファイヤ。〈ダンスホール版ミスティーク〉、もしくは〈増員したニーナ・スカイ〉なんてのはいささか強引すぎる例えかもしれないが、このたびリリースされる彼女たちのファースト・アルバム『For Your Attention』には、早くもファイヤならではの個性が刻印されていて、そんな陳腐な例えはすぐさま押し返されてしまうだろう。もっと言えば、〈R&Bとダンスホールの融合〉という常套表現すら意味をなくしてしまいそうなほどにさまざまなスパイスがブレンドされているのがこのアルバムだ。

「イギリスのダンスホールとジャマイカのダンスホールは決して同じではないし、私たちだって、ただジャマイカのダンスホールを真似るだけじゃつまらない。その代わり、自分たちが聴くすべての音楽の要素をジャマイカのサウンドに取り込んで、独自のダンスホールを作っているのよ」(キジー・ベネット:以下同)。

 その個性の軸となっているのは、ロンドン出身のシング・ジェイ、ジンバブエ出身のシンガー、ジャマイカ出身のDJという出身国もスタイルもバラバラの3人のキャラクターを前面に押し出したコンビネーションのユニークさ。3人も揃ってしまうとつい目移りしてしまいそうだが(?)、マイク捌きの面でもいろんな方向に耳が引っ張られてしまう。彼女たちの最大の魅力はここだ。

「私たちはただ自分たちの大好きな音楽を作りたかっただけで、レコード契約をモノにしようと思っていたわけじゃないの。ただ心から湧き出るような素晴らしい音楽を作りたかっただけ。だから、3人のコンビネーションを特に練ったわけでもないし、自然と役割が分かれただけで、誰をどんな役割にしようなんて決めたこともないわ」。

 ま、これだけキャラクターがバラけていれば〈自然と役割が分かれる〉のも当然でしょう。そんなバラバラな個性をまとめあげているのは、リッチ・ドゥルーリーや先頃日本デビューも果たしたサンサイクルのドラマイトなどUKのプロデューサー陣、そしてワード21やジャズワドといったジャマイカのプロデューサー陣。トラック面でも多国籍チームに支えられ、 彼女たちのめざした音作りが存分に表現された形となった。

「誰もが楽しめるアルバムを作りたかったの。いろいろなカテゴリーに収まるアルバムをね。これはダンスホール・アルバムだけど、いろいろなスタイルを採り入れているから、フレッシュでおもしろいものになったと思うわ」。

 ところで、イギリスのダンスホール・シーンというと90年代初頭にティッパ・アイリーなどが活躍して以降、国外にそれほどシーンの盛り上がりが聞こえてこなかったように思うのだが……。

「イギリスのダンスホール・シーンはどんどん大きくなっていて、素晴らしいアーティストが多数出てきている。カネシャ・カラッツは絶対に大物になるわ。ジャメリア&エステルみたいに、ジャマイカの影響を受けつつもオリジナリティーを保って素晴らしい音楽を作るイギリスのアーティストもたくさんいる。全土にダンスホール・シーンが存在するし、小さな町にもジャマイカ人コミュニティーがあって、それぞれが結びついているの」。

 敬愛するバウンティ・キラーを招いたキュートな“What's Going On”、サンサイクル軍団とのマイク・リレーを聴かせる“Pay Attention”、エマの伸びやかな歌声とテンザのレディ・ソウばりのトースティングが複雑に絡み合う“Shack It Out”など、ダンスホールとR&BとUKガラージとバングラと……と多種多様なサウンド・スタイルがファイヤの名の下に奇跡的な融合を見せたこの『For Your Attention』。その一方では、“Must Be Love”のヒットについて尋ねると「すごーーーーくウレシかった!! とにかく、ラジオやTVで自分たちの曲がかかるのは最高の気分だったわ!!」と興奮気味に話すようなキュートな一面もアリ。これも奇跡的なバランス? ま、そんなところも含めて魅力的な3人なのだ。

PROFILE

ファイヤ
ロンドン出身のキジー・ベネット、ジャマイカ出身のテンザ・フォスター、ジンバブエ出身のエマ・ナンブロという3人によって、99年にロンドン郊外のスラウで結成される。地元のユース・センター(青年館)での楽曲制作など地道な活動を続け、2003年にはデフ・ジャムUKから、同レーベル所属シンガーであるスマッジをフィーチャーした“Must Be Love”でデビューを飾る。イギリスのポップ・チャートにも名を連ねたこの曲で一躍注目を集め、続く“Too Hot”もスマッシュ・ヒットを記録する。その後サンサイクルらを擁するダンスホール・レーベル、ジャムダウンに移籍。2005年1月20日にはファースト・アルバム『For Your Attention』(Jamdown/東芝EMI)の日本盤がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年02月03日 13:00

更新: 2005年02月03日 18:19

ソース: 『bounce』 261号(2004/12/25)

文/大石 始