Edan
ノスタルジーと未来への眼差し……待望の新作をリリースしたイードンの明日はどっちだ!?
「去年、日本でライヴをやったんだけど、そりゃあスゴかったよ。音楽が力強いコミュニケーション・ツールであることを思い知らされたね。音楽を通して世界のいろいろな人種、国籍、民族がコミュニケートできる。言語のバリアもなくなるんだよ」。
イードンは日本で人気がある。いや、〈人気がある〉というよりも〈磐石なファン・ベースを持つ〉と言ったほうが近いかもしれない。とにかく、イードンが特異なセンスで紡ぎ出すギミックいっぱいのサウンドと、鈍い光を放つヤンチャなラップがたいへん耳に美味しく、それゆえ多くの人に愛されているのだ。そんなイードンがセカンド・アルバム『Beauty And The Beat』をリリースした。彼の粗削りなビートとレトロかつフレッシュなネタ使いから創造されるのは、シュールでスペイシーだがどこか素朴で温かみのある音世界。もちろんその根底を成すのは、前作同様、オールド~ミドル・スクール期への偏狂なまでのオマージュである。
「確かにオールド~ミドル・スクールに対する愛はあるね。ぼくはそういう音楽に育てられたから。当時の音楽のほうがずっと実験的でオープン・マインド、そして温かかったと思う。いまはすべてがビジネスで、人間のスピリットが大事にされていない。どうなっちゃってるんだよ? だからぼくらは時に立ち止まって、どうしたらヒップホップを進化させられるのかを考えなければいけないんだ」。
ナードな雰囲気を醸すこのサンプリング・テクニシャンは、もちろんその言葉どおり、作品を進化させる作業も忘れない。
「自分というものを全面的に表現するために、聴いて育ったロックと多大な影響を受けたヒップホップをアルバムのなかに折衷させるっていう、ある種のタブーを破ったんだ。それが前作から進化したところかな。それにぼくはいつだって、自分のサウンドにオリジナリティーや未来性を注入しようと努めてるよ」。
イードンのサウンドは〈ノスタルジー〉というベースに、未来を見つめる〈新奇性〉が巧みにブレンドされることで初めて完成する。その新奇性は、実験性やユーモア性、そして革新性という言葉にも変換可能だ。彼は温故知新の意味をシーンに改めて問いかけると共に、既存のルールと現状の価値観に揺さぶりをかけているのである。
センセーショナルかつ鮮烈な音がヒップホップのメインストリームにこそある昨今、アングラものを聴く意味はこのイードンに集約される、とは大げさだが、あながち冗談でもない。少なくともこの奇才イードンがアングラ界のヒーローのひとりだとは断言できる。ヒーローはいつだって聴き手の心をときめかせてくれるのだ。
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