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インタビュー

POMERANIANS


 レゲエやスカを基調とした切なくも大らかなサウンドで、活動の拠点である下北沢界隈を中心に着々と注目を集めつつあるPOMERANIANS。そんな彼らが結成されたのは今を遡ること5年前。それぞれ別のバンドで活動していた河原崎亙と松本光由が、数度にわたる対バンを経て意気投合したところからPOMERANIANSのユルくも真っ直ぐな歩みは、いざ始まりを告げることに。

「当時は、2人ともギター・ポップっぽいバンドをやっていたんですよ」(河原崎亙)。

「僕もポール・ウェラーとか大好きで。あとはビートルズやXTCだとか、とにかくイギリスの音楽をずっと好んで聴いてましたね」(松本光由)。

 UK直系の折り目正しいサウンドを指向していた彼らが、ほどよくレイドバックした現在のサウンドに辿り着くまでの間には、以下のような興味深い音楽的変遷があったのだそう。

「最初はトータスとかシー・アンド・ケイクとか、いわゆるシカゴ音響系っぽいバンドをめざしてたんですよ。レゲエやダブの要素を採り入れたのも、ディレイやリヴァーブに興味があったから。当初は、あくまでも音響効果のひとつだったんです。そこからドラムンベースやUKダブを経由して、徐々にレゲエやスカを本格的に聴くようになった感じですね」(河原崎)。

 緩やかなバックビートに乗せて歌われるのは若者たちのリアルな心象風景。たとえば、昨日食べた晩御飯のことさえも思い出すことができないルーズな〈僕〉や、雑誌で見た靴のことを喜々として話す〈あの子〉のことが、今回リリースされたニュー・アルバム『雑踏ダイバー』でも、過度なドラマツルギーを排した飾らない書き口で綴られている。

「自分にとってリアルじゃないと駄目だなと思って。たとえば戦争について歌詞を書く人たちにとっては、それがすごくリアリティーのあることだと思うんですよ。でも僕が今感じてるすごくリアリティーのあることといったら、彼女のことだとか、どうしても朝起きれないこととか、本当にそういうことだったりするんで(笑)。そこは嘘偽りなく出していこうと」(河原崎)。

「メンバーだけで表現できることを追求したかった」という河原崎の言葉どおり、演奏面においても各自がそれぞれの持ち味を存分に発揮して、楽曲の世界観を見事に引き立てている。

「お互いの演奏を邪魔しないように、それぞれのスタンスを明確にしようって。今回は演奏するうえでの立ち位置に気を配りましたね」(村上和正)。

「自分のプレイを曲げるようなことはせず、僕もみんなが素直に出している音に対して、自然な形で混ざっていければいいなって」(松本)。

「前作『Dig The Slack Music!』のときは、バンドに入ったばかりだったんで、〈レゲエのリズムとは?〉みたいなことばかり考えて叩いていたんですけど、今回はみんなが欲しがってる音を自分なりの視点で探すことができたと思います」(伊藤勇気)。

 ちなみに『雑踏ダイバー』という一風変わったタイトルには、河原崎自身のこんな思いが反映されているのだという。

「ちゃんと社会生活はできてるんだけど、なんとなく社会に対する帰属感が薄いっていうか。そういう気持ちが僕の中にはすごくあるんです。かといって社会に帰属しきれてないことを、それほど否定的には捉えていなくて。会社で普通に働いてる人たちとは距離があるんだけど、それはそれで前向きに楽しめちゃってる自分もいるんですよ。そういう感覚を象徴する言葉として〈雑踏ダイバー〉って言葉が思い浮かんだんです」(河原崎)。

 一見、なんでもないように思える日常にも、心震わせる感動や喜びがそこかしこに隠されているわけで。『雑踏ダイバー』は、そうした宝のありかを、さりげない所作を通じて、私たちにこっそりほのめかしてくれるはずだ。

PROFILE

POMERANIANS
2000年に下北沢で結成。河原崎亙(ヴォーカル/キーボード)、松本光由(ギター)、村上和正(ベース)、伊藤勇気(ドラムス)からなる4人組。自主音源を制作しつつ、渋谷/下北沢を中心にライヴ活動を開始する。2002年より、POWWOWとの共同イヴェント〈東京の星〉をスタートさせ、着実に活動規模を拡大していく。2004年5月、ファースト・フル・アルバム『Dig The Slack Music!』のリリースを経て、〈フジロック〉〈ミナミホイール〉〈スペシャ列伝〉などのイヴェントに出演し、そのいずれでも高い評価を得る。このたび、タワレコ限定でリリースされたシングル“踊っていたいよ”“裸足の音人”も収録したニュー・アルバム『雑踏ダイバー』(BabeStar)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年04月14日 12:00

更新: 2005年04月14日 18:55

ソース: 『bounce』 263号(2005/3/25)

文/望月 哲