インタビュー

Madeleine Peyroux


 こんなにも聴く人のココロを暖めてくれるシンガーなんて、そんじょそこらにはいませんよ!! 彼女の名はマデリン・ペルー。アコースティック・ギターを手に、少し鼻にかかった甘~い声で弾き語る彼女の音楽は、まさにホロッとするような暖かさに満ち溢れている。この一息つかせてくれるような幸福感は、昼下がりのオープン・カフェで一杯のカフェオレをすすって和むような感じ? アメリカ生まれでありながら、カフェのメッカとしてもお馴染みの華の都=パリのストリートで活動している彼女が、実に8年ぶりとなるニュー・アルバム『Careless Love』で表舞台に戻ってきたぞ!

「人生そんなに順風満帆というわけではないかもしれないけれど、8年の間に精神的にも成長して歌心も付いて、前のアルバムよりも成熟した作品に仕上がったんじゃないかな、って思うわ」。

 96年にリリースしたデビュー・アルバム『Dreamland』では、ビリー・ホリデイやベッシー・スミス、エディット・ピアフといった大歌手たちの名曲を、マーク・リーボーやジェイムズ・カーター、レジーナ・カーターといったNYのロフト・ジャズ・シーンの気鋭たちの手も借りてカヴァーし、ジャジーでありながら、どことなく〈古き良きアメリカ〉といった佇まいを持った作品となっていた。今回の新作はというと、オリジナルに加えてボブ・ディランやハンク・ウィリアムス、そしてふたたびビリー・ホリデイの楽曲を取り上げているが、前作のアメリカンな雰囲気とはまた別のもの。言ってみればパリの古い街並みを連想させるような、ほどよくエスプリの利いたフォーキーなセレクションとなっている。BGMとして流し聴きしても超リラックスできるし、逆にマニア心を燃やしてじーっくり聴くのもOK! そこでは、またも彼女のハイブリッドなカヴァー・センスが光りまくっている。

「私にとってカヴァーをするっていうことは、シンガーとして物語を語りつつ、パーソナルな経験を伝えることで、それぞれのリスナーにとっての意味を生み出すということ。今回の曲もそういったソングライティング的な観点から選んだの。私が幼い頃から好きだったボブ・ディランの“You're Gonna Make Me Lonesome When You Go”を今回取り上げているんだけど、彼のラヴソングがものすごく美しいのは、聴き手それぞれが〈自分の歌〉として身近に思えるような普遍性がそこにあるからだと思う。ハンク・ウィリアムスの“Weary Blues”もそう。あの曲は、自分の夢に気付くことなく、待ち続けることにくたびれてしまった人のことを歌った曲なの」。

 マデリンはディランやウィリアムスのほかにもWC・ハンディやレナード・コーエンの楽曲を取り上げているが、このアルバム一番の目玉といえるのが、ノラ・ジョーンズに名曲“Don't Know Why”を提供したことでも知られるソングライター、ジェシー・ハリスとの共作曲“Don't Wait Too Long”だ。彼とはセントラル・パークのベンチに並んで腰掛けて、〈あーでもないこーでもない〉って曲作りをしたんだって!

「ジェシーはとってもパーソナルな曲を書く才能に溢れているわ。社会的な意識を持つ曲というよりは、人間の小さな秘密について書くのが好きみたい!(笑)」。

 15歳のときからパリのストリートで歌い始めた彼女は、〈ジャズ・クラブで歌わないか?〉と誘われたのを機に学校を中退している。それ以来、「音楽は私よりも大きな存在。私はただ音楽から学びたいだけなの」という信条のもと、ひたすら弾き語りを続けてきたマデリン・ペルー。嘘のない暖かさが、ここにはあります。

→2005年5月10日、青山CAYで開催のライヴ・イヴェント〈intoxicate#15 Midnight Blue〉にマデリン・ペルーが出演! 詳細はこちら。

PROFILE

マデリン・ペルー
ジョージア州出身のシンガー。13歳の頃、両親の離婚を機にパリへ移住。その後、現地のストリート・ミュージシャンたちと交友を深めながら、リヴァーボート・シャフラーズなどのバンドでヴォーカルを担当するようになる。同バンドのヨーロッパ・ツアーなどで徐々に注目を集めるなか、96年にはマーク・リーボーらも参加したファースト・アルバム『Dreamland』でソロ・アーティストとしてデビュー。その後活動の中心を再度ストリートに移す。2004年にはウィリアム・ギャリソンとの共演作『Got You On My Mind』をリリース。同年には実に8年ぶりとなるニュー・アルバム『Careless Love』(Emarcy/ユニバーサル)をリリースした。このたびその日本盤が登場したばかり。

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掲載: 2005年04月14日 12:00

更新: 2005年04月14日 19:23

ソース: 『bounce』 263号(2005/3/25)

文/本橋 卓