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インタビュー

瘋癲

彼らは伏したままじゃなかった。アイデアを凝らし、チャレンジを続け、自由気ままにグルーヴを前へ進めていく彼らは、まさに名が体を表した瘋癲そのものだ!!


『MUSIC IS EXPRESSION』――そう題された瘋癲のファースト・アルバムは、あまりにもストイックでユニークで、とにかく格好良かった。それから2年。サウンド構築の要でもあったドラマー/エンジニアのM.FUJITANIを亡くした彼らが、力強い新作『FLIP HOP』を携えて帰ってきた。

「役割としてFUJITANIがミックスの隅々まで見ていたわけだし……もちろん気持ちの整理も必要だったし。でも、やっぱり同じ環境で作りたくて、制作の雰囲気は前と同じにできましたね」(DJ SUWA、DJ)。

「アルバムを作る話になったのは去年の春ぐらい。レコーディング期間は2か月ぐらいだったけど、そこに入れる状態になるまで時間がかかったんです」(MILI、MC)。

「FUJITANIを失ったことに対する感情をそのまま出した作品を作ってもええかな、って僕自身は思った時期もあるんですけど、それは違うやろうと。アイツも含めてアホな連中の集まりやから、考え込むより、いままでどおりにやろうと」(SUWA)。

 誤解を恐れずに言えば、『FLIP HOP』に〈何かが欠けた〉ような印象はない。逆に言えば、瘋癲がその状態に至れたことの証明として存在するのがこの『FLIP HOP』なのだ。アルバムはFUJITANIが遺したドラム・ループが打ち鳴らされる“REBIRTH”をエントランスに始まるが、それを断ち切るようにアグレッシヴな“XXX”のファット・ビーツへと雪崩れ込んでいく。いや、断ち切るという言い方は不適当か。あくまでも自然な流れで瘋癲の恐るべき現状が次々に露呈されていくのだ。

「今回はグルーヴ重視で、踊れる感じとかループ感を突き詰めた作品ですね」(SUWA)。

「うん。自由度が出たかな。前作を作り終えた段階から考えてたことでもあるんですけど、メンバーそれぞれが昔から濃いことをずっとやってきてて、それを初めて音源にしたっていう部分もあるかな」(MILI)。

「みんなドラムンベースとかレゲエとかいろんな現場でやってるし、僕もDJやってるしね。あと、前作はイメージ的に凄くストイックでガッチリした感じやったから、今回はどんだけ柔らかく温かくできるかな、っていうのもあったね」(SUWA)。

 ありきたりな言い方でイヤになるが、アルバムにはヴァラエティー豊かな楽曲が並ぶ。目眩のするようなまったりした問い掛け“why?”や、SUWAと並んで今作のプロデュースに尽力しているGUROのギターが牽引するロッキッシュな“M.V.R.”、UKダブ風の“YEAH OH EI!!(UH-SA!)”、FUJITANIに捧げた“good friends”といった、表情もグルーヴも多士済々な楽曲たちが滑らかに1枚の音盤上で緩やかに手を結んでいる。

「自分たちが聴きやすいと思った流れにしてて、曲順もメッセージというよりも音的な順番やね」(B-BANDJ、MC)。

 そんな豊かな流れを結ぶのは「フジやん(FUJITANI)の思いが凄く入ってる」(BANDJ)という、子供たちへのメッセージ・ソング“我等は彼等へ”。後ろは振り返らない。だけど、もちろん忘れてしまうわけがない。そういうことだ。いずれにせよ、求道的にすら映った〈瘋癲〉像は見事にひっくり返された……〈FLIP HOP〉とは言い得て妙。それは、メンバー個々の意識の変化や成長の結果でもある。

「ラップが前よりフロウを詰めない感じになってきた。ヒップホップで美味しいのは〈間〉やからね。それに昔は難しい言葉を使ってリリックを組み立ててたけど、よく考えたら自分がパッと聴いて好きになるMCは全部そうじゃなくて(笑)、リリシストじゃないけど、曲のなかにグッとくる言葉がひとつあるような。それやったら自分もパッと聴いて気持ちいいのを作ったらええやん、と思って」(BANDJ)。

「やっと気付いたんか(笑)」(SUWA)。

「うん。10年以上やってて、気付くのが遅かったけどな(笑)」(BANDJ)。

「100%強い言葉ばっかりでも疲れるし、言葉として何でもなくても、音として気持ち良く聴ければ最終的に何かが残る。いろんな人に聴いてもらいたくて作ってるんやから、難しいことを掘り下げるのも大事やけど、そうじゃないものも大事」(MILI)。

「“good friends”とかもね、サウンドとMCの音がいっしょになって膨らんでるし、長いことやってるけど、今回は前以上に〈やりよるな~〉と思いましたね」(SUWA)。

 そして、この後サンフランシスコやNYでのライヴも予定しているという彼らは、さらに次の段階を見据えているようだ。今回の『FLIP HOP』が見事に描き出した彼らのポテンシャルは、今後どのように表出されていくのだろう?

「ひょっとしたら3枚目になったらまた偏るかもしれないけど、いまは今回のスタイルにチャレンジしたい」(BANDJ)。

「ライヴとかを通じて、やりたいことや足りないことも見えてくるはずやし。BANDJも言ったように、ある方向に偏るか、もっと拡げていくか、まだ自分たちのなかでも決まってないんですが、ただ、何でもできるぞっていう自信はありますね」(MILI)。

「なので、今回のアルバムはとりあえず聴いて、その人なりに色を付けてほしいですね。それでジャケットも白にしてるんですよ(ニヤリ)」(SUWA)。

 何となく胡散臭いまとめだが……それは本当のことだ。〈瘋癲〉とは〈既成の通念から外れて振る舞う人〉というような意味である。この瘋癲は何度でも殻を破って、状況を〈FLIP〉していくに違いない。美しすぎる『FLIP HOP』はその序章なのだ。

▼瘋癲の過去作を紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年04月28日 16:00

更新: 2005年04月28日 16:32

ソース: 『bounce』 264号(2005/4/25)

文/出嶌 孝次