インタビュー

beret

ブラジル音楽の旨味をたっぷり吸い込んだ、とびきり素敵な新作『arco-iris』!!


 雨の膜に包まれたような透明なコードの連なりからひと呼吸、一気に晴天へと突き抜けるメロディー。ヴォーカルと作詞を担当する後藤圭子、コンポーズを手掛ける奥原貢が口を揃えて「シンプルゆえに懐が広くて、ずっと探究していくに値する宝物」と敬愛するブラジル音楽をベースに、70年代の歌謡曲黄金期の刹那的音階を巧みに採り込んだ楽曲を聴かせるberet(ベレイ)が、新作『arco-iris』をリリースした。念願のブラジル録音から持ち帰ったヴァイブを鮮やかに刻んだ名曲の数々には、10代の自分であれば間違いなく立ち漕ぎ自転車通学の友となっていたと思われる〈抜け〉、そして明朗なまでの自信に溢れている。

「貢はブラジルに行って、今までグレーだった部分が全部なくなって帰ってきた。白か黒かがとてもハッキリして、とにかく迷いがなくなった気がしますね」(後藤圭子、ヴォーカル)。

「今回は憧れのフィロ・マシャードにも参加してもらえて、日本のスタジオでは忘れがちな〈音楽は楽しむためにある〉ということを改めて叩き込まれた感覚があって。だから、いままで細かく作り込んでいた部分、悩んでいた部分も、〈結局、伝えたいのは歌だろう〉って、いい意味で開き直ることができたんですね」(奥原貢、ギター)。

「私も自然にシンプルで強い歌詞を引き出されました。美味しい野菜はそのまま食べたいモードというか、とにかく余計な味つけはしないでいいんだなって」(後藤)。

 無駄がなく裸だからこそ、beretの音楽はオリジナル。ふたりのサウンドからサンバやボサノヴァの影響を聴き取ることは容易いが、それ以上に胸に迫るのは、とても日本的な情緒やブルージーとすら表現したい情感の波。「スウィングガールズ」の上野樹里は「ジャズやるべ!」と言ったが、beretは「ボッサやるべ!」とは言わないのである。

「やっぱり本物のブラジル音楽を突き詰めていくと、自己表現ってとこにぶつかると思うんです。コードやリズムはあくまで表層であって、音楽の旨味っていうのはその先にあるものだと思うし」(奥原)。

「そもそも本物ってなんだろうって思うんですけど、やっぱりそれは〈どれだけ自分を出せるか〉ということだと思うんですね」(後藤)。

 つまりは〈本物〉をめざすのではなく、〈本物になること〉をめざした結果の『arco-iris』。部屋でもカーステでも、はたまたカラオケでも同じように感動できる音楽の原材料は、彼らのそんな意識にあった。〈ラウンジ風味で抑えめに、小バコ仕様でボッサやるべ!〉なんて、そんな小さなことは言わないのである。
▼参加アーティストの作品を紹介。

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掲載: 2005年05月12日 16:00

更新: 2005年05月12日 19:09

ソース: 『bounce』 264号(2005/4/25)

文/江森 丈晃