Waking Ashland
この4月に実現したジミー・イート・ワールド(JEW)の来日公演は、これまで散々〈エモの先駆者〉と謳われてきた彼らが、そんなシーンの喧騒とは離れたところで、聴く者の心を捉えて放さない美しいメロディーを持ったいい曲を、情熱と共に演奏できるピュアなロック・バンドであるという事実を証明するものだった。邪心を捨てて、本当にまっさらな気持ちで、ただただいい曲を作ることを追求すればするほど、余計なものは落ちていく。とはいえ、それはすでに自分たちのポジションを確立したJEWのようなバンドだからこそできることであって、例えばこれからロック・シーンに打って出ようとしている新人には、やはり難しいことなのかもしれない。
しかし、その困難へ果敢に挑んでいるバンドがここにいる。その名はウェイキング・アッシュランド。カリフォルニア州立大学ノースリッジ校の音楽学部に通う学生らが結成したサンディエゴの4人組だ。
「バンドを始めた頃は近所のコーヒーハウスでライヴをやることが目標だった。だけど、すぐにこのバンドはそんなもんじゃないってことに気付いて、何回か練習しているうちにラウドなギターとアグレッシヴなドラム、そこにピアノを入れて、メロディアスなサウンドが演奏できるバンドにしようって方向性が決まっていった。僕らは是が非でも自分たちだけのスタイルを確立したかったんだ。なぜって、僕らの地元には同じようなサウンドのバンドばかりがいすぎるからね(笑)」(ジョナサン・ジョーンズ:以下同)。
2004年5月に自主リリースしたEP『I Am For You』がノンプロモーションにも関わらず(つまり楽曲の魅力だけで)有名パンク系サイトでJEWらメジャー・アーティストを押さえてチャートのNo.1に輝いた彼らは、〈Warped Tour〉出演を経て、トゥース&ネイルと契約を結ぶと、ついにファースト・アルバム『Composure』を完成させた。若いバンドにありがちな、ただエネルギッシュなだけではない、まさに〈Composure=落ち着き〉というタイトルがふさわしいこのアルバムは、ピアノをフィーチャーしたアンサンブルと研ぎ澄まされた美しいメロディー、そしてほどよく抑制されたなかにもしっかりと盛り込まれた感情表現が印象に残る作品だ。これを聴くかぎり、すでに書いたように彼らがシーンの喧騒から離れ、純粋にいい曲を作り、それをライヴで演奏することだけに情熱を注ぎ込んでいることはあきらかだ。
「いちばん大事なのは、メロディーがナチュラルな状態のまま生み出されることだ。僕の中にあるメロディーが、どんなふうに出てきたいか語りかけてくることがある。そういうときこそ最高の曲が書ける。ピアノを弾き続けていると、そんなことが起きるんだ。僕には正しいメロディーが自分の中から生まれてくる瞬間がわかるんだよ」。
彼らが全米、いや、世界中のロック・シーンで話題になるのは時間の問題だろう。しかし、たとえシーンの喧騒に巻き込まれてしまったとしても、純粋にいい曲を作りたいという思いが迷うことはないはずだ。
「音楽活動のビジネス面については、あまり考えないようにしているんだ。これまで僕らは一歩ずつ歩いてきたからこそ、ここまでやってくることができた。だから、来年も同じことを続けようと思っている。僕たちはまだ若い。時間は僕たちの味方さ、焦る必要はない。正しいやり方でバンド活動を続けていきたいんだ。みんなにとっても、そして自分たちにとっても、僕らが真実の存在であるという意味でね」。
PROFILE
ウェイキング・アッシュランド
2003年、サンディエゴで結成。ジョナサン・ジョーンズ(ヴォーカル/ピアノ)、ライアン・ラーリル(ギター)、アンドリュー・グロッセ(ベース)、トーマス・リー(ドラムス)の4人は、地元のライヴで着実にファンベースを築き上げていく。2004年5月にはEP『I Am For You』を自主リリース、同作が某パンク系サイトのチャートでNo.1を記録するなど大きな話題を集める。その評判をステップに同年の〈Warped Tour〉に参戦、〈10年に一度の逸材〉と各方面から高い評価を獲得する。2004年末には、各社の争奪戦を経て現在のレーベルと契約。ルー・ジョルダーノをプロデューサーに迎えて制作したファースト・アルバム『Composure』(Tooth & Nail/FABTONE)を5月10日にリリースする。