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インタビュー

Vitalic


 流石、ビョークはお目が高い。ハウィーB、トリッキー、マーク・ベル、マトモス……彼らの共通項は彼女の作品に呼び寄せられ、その音楽的才能を広く知らしめた点にあるわけですが、ここに登場するヴィタリックもこのたび“Who Is It?”のリミキサーに起用され、ビョークのお墨付きを得たアーティストのひとりということになりました。そもそもこのヴィタリックが注目を浴びたのは2001年の『Poney EP』。ワイルド・ピッチ・スタイルでシンセが暴走する必殺曲“La Rock 01”は、2メニーDJsからフランソワK、LCDサウンドシステムまでがDJセットに組み込む〈器のデカい〉曲として支持を獲得。そして完成した初のオリジナル・アルバム『OK Cowboy』は、既発の“La Rock 01”“My Friend Dario”を含みつつも、全編異なるアプローチでエレクトロニック・ダンス・ミュージックに取り組んだ、まさに大作!となりました。

「アルバムのコンセプトはいくつかあった。まず僕はスタイルに関係なく、もっと自分のパーソナルな世界を見せたかった。みんなが予想できることをやっても意味がないし、僕自身同じことを繰り返すのは好きじゃないからね。それにゲスト抜きで、サンプルも生楽器も省いて1人でやりたかったから、オルガンとかファンファーレや声を入れたい時は自分でシンセを使って作らなきゃならなかった。最初は自分が何をやりたいのかはっきりとわかってなかったけど、やりたくないことは把握していたね」。

 テクノのマーケットで活躍するDJヘルやテレンス・フィックスマーなどに近しい感性を持ちつつ、プログレやヨーロッパ古典音楽の情緒も色濃く漂わせる楽曲群。資料によると(別掲のプロフィールを参照)、もともとはウクライナからドイツにやってきたとありますが。

「その経歴は作り物なんだ。本来の生活と音楽家としての生活を分けるためのね。個人的な話をするのは難しいからジョークにしたんだよ。反面、ニセの経歴だけどベースは事実なんだ。場所や日付をちょっと変えてみただけで、異国情緒たっぷりな完全なる別人の出来上がりってわけさ」。

 経歴詐称! ここで思い出すべき人物は某婦人ではなく、ミュートの名プロデューサーにして数々の変名を使い分けたダニエル・ミラーです。彼に〈オールタイム・ベストな電子音楽〉を尋ねると、ダニエルのノーマル名義による“Warm Leatherette”のほか、ジョルジオ・モロダー、ベルギーのニュービート・バンドであるコンフェッティス、ダフト・パンクの楽曲をピックアップ。共通点は、「ダンス、そしてエレクトロニックでエピックである点」とのこと。なるほど彼の作品からも、これら欧州の電子音楽に脈々と流れる〈キッチュ感〉への強い愛を感じます。また、『OK Cowboy』には電子的なオルガンやホーンを使った楽曲も多く、それは70年代の映画音楽やプログレの世界、ジャン=ミシェル・ジャールやフランソワ・ド・ルーペのアプローチにも影響を受けた結果のようです。ちなみに彼のライヴ・パフォーマンスはロック・ファンからの支持も強いようで、オランダの音楽誌では〈ダンス・ミュージック界のニルヴァーナ〉とも評されたとか。

「ロックの持つエナジーには影響を受けているよ。例えば、僕のいちばん好きなロック・バンドがストゥージズなのは、ダーティーでコントロール不能、かつパワフルで同じパターンを追わない点がロックそのもので、凄く荒くて野蛮だけどハードコアじゃないからさ。ハードなものはスロウになるほど、速いスピードでは得られない生々しくてダーティーなエネルギーがあることに気がついたんだよ」。

 まさにヴィタリックの音楽も、ときにスロウで、ただハードなだけじゃない。国籍不明男が熟成するヨーロピアン・ダンス・ミュージック、これは今後の活躍も期待して良さそうです。

PROFILE

ヴィタリック
本名パスカル・アルベー。73年にウクライナで生まれ、旧東ドイツで育ったフランス人クリエイターという設定。96年にディマ名義で最初のEP『Bonne Nouvelle EP』をリリースし、ハスラー・ポーンスターなど多名義で12インチ・リリースを重ねていく。その後ハッカーを通じてDJヘルと出会い、2001年にインターナショナル・ディージェイ・ジゴロより『Poney EP』をリリース。同作に収録の“La Rock 01”がリッチー・ホウティンやローラン・ガルニエらにプレイされるなどしてフロア・ヒットを記録。並行してベースメント・ジャックスやビョークなどのリミックスも手掛ける。このたびファースト・アルバム『OK Cowboy』(Different/PIAS/HOSTESS)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年05月19日 11:00

更新: 2005年05月19日 17:19

ソース: 『bounce』 264号(2005/4/25)

文/リョウ 原田