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インタビュー

The Departure


 石を投げればかなりの高確率で有望な新人バンドに当たると言われる現在のUKロック・シーン。そこで成功するためには何が必要なのだろう。ルースターのようなルックスか、マキシモ・パークのような所属レーベルの意外性か、〈ポエット・パンク〉のようなムーヴメントか――。解答はデパーチャーのファースト・アルバム『Dirty Words』にある。必要なのは〈情熱〉である、と。

「僕らが住んでいた町はすごく小さいところでね。けど、その町に収まりきらない大きなアイデアがあったんだ。だから、人とは違うなにかをすること、挑戦していくことみたいな意味がこのバンド名にはあるんだ」(サム・ハーヴィー)。

 このコメントを裏付けるかのように、アルバムのサウンドはとにかく強烈だ。空間を浮遊するサムの鋭利なギターと、イアン・カーティスを思わせるデヴィッド・ジョーンズの陰のあるヴォーカル。それらを中心とした漆黒オーラが支配するニューウェイヴ・サウンドは、凡百のリヴァイヴァル勢が到底追いつけないほどの神格性に満ちている。

「俺は16歳までコミューン生活をしていたんだけど、その経験が歌詞やサウンドの内容に活かされていると思う。断絶、離脱、イマジネーションのダークな部分やロマンティシズムとかがね」(デヴィッド・ジョーンズ)。

 2004年1月にノーザンプトンで結成されたデパーチャーは、地元でのライヴ活動を経て、スマッシュ・ヒットとなるシングル“All Mapped Out”をリリースする。レーベルは伝統と格式のある、あのパーロフォンだ。

「いやもう、ホントに立派なレーベルだからね、光栄に思ってるよ。このレーベルにはヴァラエティーに富んだアーティストがいると思うけど、同時に質も高いよね。ブラーやレディオヘッド、コールドプレイ、そしてカイリー(・ミノーグ)姐さん!」(サム)。

 事実、〈すぐにアルバム・デビューはしない〉というパーロフォンとバンドの方針により、バンド・スキルはじっくりと熟成され、アルバム自体の質も磐石のものとなった。それはすなわち、安易にニューウェイヴ・サウンドを掘り起こすだけの作業に没頭している昨今のシーンに対するアンチテーゼであり、警鐘でもある。

「80'sサウンドのリヴァイヴァルって、プレスが勝手に作っているだけだろ? で、俺らのこともその一部だって捉えてる。でもアルバムを聴き終わる頃には、俺らの音楽にどれだけのアイデアとインスピレーションが詰まっているかがわかると思うよ。俺たちは自分たちのことを、これからもいい作品をたくさん作っていけるバンドだと思っているし、その権利があるバンドだと思っている。俺たちはシーンに乗っかっただけのバンドじゃないんだ」(デヴィッド)。

 昨年あたりからUKシーンは、〈ブリット・ポップ〉以来の狂騒に包まれている。今年に入ってからも〈ポエット・パンク〉というムーヴメントが形成されるなど、その勢いは今後も続きそうだ。そんな一種の危うさを孕んだシーン情勢においても、彼らはその自信を崩そうとはしない。

「いまはすごくエキサイティングだよね。ショップにはたくさんの〈デビュー・アルバム〉が並んでいて、みんな選びたい放題だしさ。でも僕らがニセモノじゃないことはわかるだろ? 僕らは自分たちがやってることにすごく情熱を持ってる。これだけは他のバンドには負けないね 」(サム)。

 好調をキープし続けるUKシーンに、巨大な句読点を記さんとするデパーチャー。そして野望と挑戦に満ちた情熱が詰め込まれた『Dirty Words』。その根っこは驚くほどタフなのである。

PROFILE

デパーチャー
2004年1月にノーザンプトンで結成。デヴィッド・ジョーンズ(ヴォーカル)、サム・ハーヴィー(ギター)、リー・アイアンズ(ギター)、ベン・ウィンストン(ベース)、アンディ・ホブソン(ドラムス)から成る5人組。同年2月に地元のパブで初めてのライヴを行い、その半年後には〈レディング・フェスティヴァル〉のステージに立つ。また、同時期にパーロフォンと契約を結び、ファースト・シングル“All Mapped Out”をリリース。同作は全英チャートTOP30にランクインを果たす。続くセカンド・シングル“Be My Enemy”もヒットを記録。さらなる話題を集めるなか、ファースト・アルバム『Dirty Words』(Parlophone/東芝EMI)を6月1日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月02日 12:00

更新: 2005年06月02日 18:37

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/加賀 龍一