インタビュー

FEIST

勢いづくカナダ・シーンから舞い降りた可憐な歌姫による、穏やかでみずみずしい深呼吸……


 デス・フロム・アバヴ・1979、ブロークン・ソーシャル・シーン、ピーチーズ……最近、ますます脚光を浴びているカナダ・シーン。そのシーンの中心から、美しい個性が登場した。ファイストは76年2月13日生まれの水瓶座。パンク・バンドのヴォーカルとして音楽活動をスタートさせるが、ツアー中に突然声が出なくなったことが彼女のキャリアの分岐点になった。

「喉が治るまで、ひとり静かにギターを弾いていたわ。メロディーに耳を澄ませることの始まりだった。その時に初めて自分自身で曲を書いたのよ」。

 シンガー・ソングライターとしての道を見い出した彼女は、そんな時に知り合ったピーチーズと一軒家をシェアした共同生活を始める。〈701〉と呼ばれたその家には、驚くことにゴンザレスやモッキーが合い鍵を使って自由に出入りしていたらしい。

「カナダは寒い土地だから、暖かくしているには、みんなで集まってジョイントを回したり、パスタを作ったり、それぞれのデモを聴いたりするのがいちばんなの(笑)」。

 そして、モッキーやブロークン・ソーシャル・シーンの作品に参加するかたわら、ゴンザレスをプロデューサーに迎えて完成させたのがデビュー・アルバム『Let It Die』だ。シンプルな要素で構成されながら、緻密でニュアンスに富んだトラック。そこにぴったりと寄り添うファイストの歌声は生々しくも官能的で、独特の雰囲気を持っている。

「歌うことは、本能の赴くままにスキーのスラローム(回転競技)をすることに似ているわ。私が信じているのは、口を開けて歌う時に何が起こるかわからないということ。その事実を受け入れたら、歌うことは陽気なものになると思う」。

 映画「ロスト・イン・トランスレーション」で描かれた「興奮と穏やかさの間にあるフィーリング」が大好きだというファイスト。今作では、そんな彼女の繊細な息遣いを隅々にまで感じることができるだろう。彼女にとって歌うことが「呼吸をするためのフィルター」なら、2004年のジュノ・アワーズ(カナダ版グラミー賞)で2部門を受賞した本作は、シーンの最前線に浮上した彼女の大きな深呼吸に違いない。

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掲載: 2005年06月02日 12:00

更新: 2005年06月02日 18:37

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/村尾 泰郎