インタビュー

ついにメジャー・リリース! 手始めとなる一発目からトンでもない〈名刺〉が届いたゾ!


 カウンターのカウンターの……そのまたさらにカウンターなものまで、つまり、何でもありになってしまった世の中で、何かに対して抗うことは難しい。なにせ、時代は一般市民がみずから監視してくれと街頭にカメラを設置する時代なのだ。しかし、抗う対象が特定できなければ、ロックはロールしていかないのかというと、それは違う。すべてを引っ掻き回し、あるいは笑い飛ばし、はたまた混沌とさせて、そこからまた新たに始めればいいのだ。2人のドラマーを要する5人組バンド、髭はそれを憎らしいくらい鮮やかにやってのけるロックンロールの詐欺師……いや、久しぶりのロックンロール・バンドだ。

「こないだ、うちのドラム&メガホン担当の佐藤“コテイスイ”康一が監視カメラを監視してましたからねぇ(笑)。新しいというか、よくわからないというか。実際、僕らは現実に乗っかっちゃってるわけだし、お国に対する具体的な批判はないんですけど、でも、腑に落ちないところもあって、そのもやもやした感じを作品にパッケージしたいんです。ま、俺のやることは全部中途半端ですしね(笑)」。

 口の端をゆがめて、そう語るのはヴォーカルにしてメイン・ソングライターの須藤寿(発言:以下同)。カラフルな色彩と揺らぎを内包し、蜷局を巻くグルーヴ、そして、そこから飛び出して聴き手を挑発するユーモラスな言葉たち……外務省、フーリガン、ベートーヴェンなどなど、彼らがリリースするメジャー・ファースト・アルバム『Thank you, Beatles』はセンスとナンセンスの間を激しく行き来する。

「まずは僕らの名刺代わりになる作品……しかも、作るなら最高の名刺を作ろうってことですよ。で、挨拶は簡潔に、8曲ってことにして、あえて僕らの一側面であるナンセンスとユーモアに焦点を絞った曲を選んだんです。泣きたい子が聴いてもしょうがないバンドだよってことを、まずは提示しておかないと始まらないので(笑)。ロックに乗せて青春を語られても、僕の場合はちり紙になっちゃうんですよ」。

 これまでにインディーでリリースした3枚のアルバムから選りすぐった6曲を再録し、新曲“アメニウタエバ”“ギルティーは罪な奴”を収録した本作を手始めに、不誠実な音楽を実に誠実に鳴らすこのバンドは、今後間違いなく台風の目になることだろう。
▼髭の作品を紹介。

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掲載: 2005年06月02日 13:00

更新: 2005年06月02日 18:36

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/小野田 雄