インタビュー

SAKEROCK


 近所になんでも999円の洋服屋があって、そこがこの前、閉店セールをやっていた。ところが数日後、その店が店名に〈新〉をつけて復活。しかも開店セールをやっている。もちろん、同じ店員。いい加減やなぁ、と思いつつ1足99円の靴下を買ったけど、中学生とオバちゃんで賑わう店内を眺めながら、頭のなかで流れていたのはSAKE ROCKだった。それも今回リリースされるファースト・フル・アルバム『LIFE CYCLE』。最高にくだらなくて、カッコイイやつだ。

「『YUTA』は自宅録音、『慰安旅行』はスタジオで一発録りだったんで、今回はしっかり作り込もう、っていう感じでした」(星野源)。

 ゲストには高田漣、トウヤマタケオらを迎え、大阪はアルケミー・スタジオで録音
された本作。異能のインスト・バンドとして、作品をリリースするたびに評価を高めてきた彼らだが、ここには巧みな足捌きのファンク・ビートもあれば、千鳥足のジャズもある。パンクの若気にムード歌謡の色香、そんなあれこれをふわりと包み込むのが、人懐っこいメロディーだ。とりわけ本作ではトロンボーンが実によく〈歌って〉いる。

「昔は弾き語りとかやってたんですよ。それで、歌うことが恥ずかしくなってこのバンドを始めたんです。だから、どうしても歌っぽいメロディーが出ちゃう。今回は特にハマケンにトロンボーンで歌ってもらいました」(星野)。

〈ハマケン〉こと浜野謙太のアドリブ満載のスキャットも、バンドに欠かせない魅力のひとつだが、本作ではフリースタイルのラップ(のようなもの)を披露。即興で絡む演奏はいつになく緊張感に溢れている。しかし、彼らがユニークなのはそんなスリルを茶化すユーモア、作り込んだアレンジをわざと崩していく、そのバランス感の絶妙さだ。

「曲作りに関しては、先にライヴでやっちゃってから、どんどん変えていきます。大体曲の雰囲気や流れができたら〈もう、大丈夫かな〉って」(田中馨)。

 JBとクレイジーキャッツがデパートの屋上でセッションしているような〈濃い〉演奏でありながら、プレイヤーとしてのエゴをまったく感じさせない。永遠のアマチュアイズムとも言うべきそのスタンスこそ、彼らの真髄といえるかもしれない。

「ウマい人の演奏って眠くなるんですよ。でもヘタな人ってドキドキするじゃないですか、大丈夫かな?って(笑)。たとえばベーシストが弾くギターとか、普段ギター弾いていない人のギター、そういう音にグッときちゃうんです。その感じを大切にしたい」(星野)。

「バンド名の由来はマーティン・デニーの曲名なんですが、デニーの音楽って、あたりさわりのないBGMでありながら、彼の曲だとすぐわかったりもする。そういう二面性に惹かれますね」(田中)。

 言ってみれば、日常と限りなくイコールで結ばれたエキゾチカ。近所の洋服屋に隠されたドラマのようなものを、SAKE ROCKは今日もプカプカ奏でているのかもしれない。だからこそ新作のタイトルは『LIFE CYCLE』=〈生活史〉なのだ。

「作り込まれた作品は、どうも生活と結び付きにくいところがあって。その点、今回は自分の生活に重ねられるところが多いです」(田中)。

「生活っていうのは、こんなにくだらなくて、おもしろい。みなさんの生活に混ぜて聴いてもらいたいですね」(星野)。

 というわけで朝昼晩と、すっかりSAKE浸りの毎日なのです。

PROFILE

SAKE ROCK
2000年結成。俳優としても活動中の星野源(ギター)、田中馨(ベース)、伊藤大地(ドラムス)、浜野謙太(トロンボーン)から成る4人組のインスト・バンド。2002年に自主制作盤『YUTA』をリリース。その後、〈日本らしさ〉をテーマにクレイジーケンバンドらが参加したコンピ『日本の態度』に、オリジナル曲と宮崎吐夢との共演曲を提供して高い評価を得る。2004年にミニ・アルバム『慰安旅行』をリリース。また、同時期にフィッシュマンズのトリビュート盤『SWEET DREAMS for Fishmans』にて“いかれたBaby”をカヴァー。昨年のフジロック・ルーキーステージでは観客動員数最多を記録。ファースト・フル・アルバム『LIFE CYCLE』(KAKUBARHYTHM)を6月8日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月09日 11:00

更新: 2005年06月23日 21:08

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/村尾 泰郎