セカイイチ
「僕らって……地味なんですよね(笑)。地道にずっとやってきたと思うし、なんか浮ついてないですから」(吉澤響)。
そんな着実さとは裏腹に、ここ最近で急速にその名を広め、先だってシングル“石コロブ”でメジャー・デビューを果たした4人組、セカイイチ。ひとくちに〈ギター・ロック〉とも括れる彼らの音楽だが、その最たる魅力は、日々の想いを題材にシンプルでありながら力強い説得力を湛えた言葉で綴る詞世界と、それをリアルな体温で伝えるグッド・メロディーである。
「歌うとね、無駄なモノが削ぎ落とされていくんですよ。なんでかと言うと、曲っていうのはいつか終わるじゃないですか。その限られた時間の中で言いたいことを詰め込むわけだから、ピンとこないものは自然にね、本当に自然に削ぎ落ちていくんですよね。僕はその枠の中で歌うということにすごく幸せを感じているんですよ」と語るのは、セカイイチの詞世界、メロディーの骨格、そのほとんどを手掛けるヴォーカル/ギターの岩崎慧。中学3年のとき、ジブリ・アニメ「耳をすませば」で観た楽しい即興演奏シーンに感動して音楽をやってみたくなったという彼だが、そんな彼の紡ぎ出す歌に引き寄せられて現在のメンバーが集まったというのがセカイイチ結成の経緯であったりもして、それはまるで件のアニメさながらなのである。
「それで、もともと〈こんなバンドになろうや!〉って言って始めたわけじゃなくて、〈いいプレイヤーが4人集まったからおもしろい〉ぐらいのノリでやってて。それは今でもそうですね」(吉澤)。
さて、そんなセカイイチのニュー・アルバム『淡い赤ときれいな青と』が完成した。セカイイチのテーマ曲と呼んでもいい既発シングル“ふりだしの歌”や“石コロブ”のほか、「この曲ができて、ホント良かった」
(岩崎)と振り返るエポックなナンバー“美しき遠吠え”、アルバムのプロデューサーである亀田誠治のひらめきによってバック・コーラスに原田郁子が迎えられた“ミソラ”など、僕やあなたの胸の中をじんわりと熱くさせてくれる楽曲が全10曲収められている。
「早く出てほしいというか、アルバムが出ることによって、そのあとのライヴがもっと幅広くなるわけだし……」(中内正之)。
「そう、それはなんでかって言ったら、楽曲の変化を確かめたいんですよね。ライヴでの演奏を重ねることによって、4人のグルーヴがすごく変わっていくんで、それを楽しみたいんですよ」(泉健太郎)。
アルバムがリリースされることによって、さらに注目を集めること必至のセカイイチだが、そんな彼らにとっての当面の目標とは?
「音に形はないし、直接触れることはできないけれど、身体と身体で触れ合うような感じで触れ合える音楽をやりたいなあって思ってます」(岩崎)。
「自分の想いを、自分のメロディーで素直に歌ってる。その歌を聴いて、僕は素直にドラムで表現しているし、他のメンバーも同じ。こんなのがしたいっていうんじゃなくて、これからも自分に根差しているものを素直に出していきたいです」(吉澤)。
「他人がやっていてかっこいいと思ってる音はあるんですけど、それを狙ってはできないですからね」(中内)。
「慧ちゃんが書く歌詞だったり、メロディーだったりが描く風景の中に行きたいんですよね。みんなでアイデアを出し合って、それを形にしていきたいんです」(泉)。
岩崎のソングライティング・センスもさることながら、セカイイチの歌から並みならぬ力強さが感じられるのは、〈良い歌好き〉という共通項を持つ4人のチームワークなのであろう。
「自分は昔から〈空〉やなあって思ってたんですよね。良いと思ったらその色にどんどん染まっていけるんですよ。空の色のように、陽が昇ったら肌色みたいになったり、昼はきれいな青に、沈むときは淡い赤に、夜になると吸い込まれていくような色にって……そうやなあって思ったんです。で、僕は〈空〉で、ウッチー(中内)は〈風〉で、健ちゃんは〈大地〉で、響ちゃんは〈時〉。彼らが僕を染めてくれるんですよ」(岩崎)。
PROFILE
セカイイチ
2001年、岩崎慧(ヴォーカル/ギター)が吉澤響(ドラムス)と共に結成。その後ベースが加入するがまもなく脱退し、当時ベーシストだった中内正之がギターとして加入。2003年、サポートを務めていた泉健太郎(ベース)が正式加入して現体制となる。地元大阪を拠点にライヴ活動を展開しながら、2003年にデビュー・アルバム『今日あの橋の向こうまで』、2004年にシングル“ふりだしの歌”をリリース。インディー盤ながら各地で話題となる。また、イヴェント〈ミナミホイール〉では最終日の大トリを務め、さらなる注目を集めるなか、シングル“石コロブ”でメジャー・デビュー。このたびニュー・アルバム『淡い赤ときれいな青と』(トイズファクトリー)がリリースされたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2005年06月09日 11:00
更新: 2007年10月16日 15:23
ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)
文/久保田 泰平