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インタビュー

Faithless

世界を揺らした超ビッグ・アクトの10年……その波乱と興奮に満ちた歴史を再確認しよう!!


 UKでダンス・シーンの失速が囁かれるなか、流れに逆行するようにチャート・ポジションを上昇させ、音楽的にも深化しているのが、このフェイスレスである。昨年リリースしたソウルフルでメロディックな4作目『No Roots』で、初の全英チャートNo.1を獲得。痛烈な反戦歌“Mass Destruction”のヒットでUS進出の契機も掴み、デビュー10年目にして新たな飛躍の一歩を踏み出そうとしている。

 そもそも、一般的に〈ダンス・ミュージック〉と括られている彼らだが、その成り立ちは独特だ。人種もキャラも異なる主要メンバー――〈黒幕〉のロロ・アームストロング(ダイドの兄)、サウンドメイカーのシスター・ブリス、MCのマキシ・ジャズ――の音楽志向や世界観の接点こそがフェイスレスの音楽であり、コラボ方法もユニーク。ブリスが作った曲の断片をロロが聴いて編集し、まずふたりでインストのアルバムを構築する。「ロロは一切楽器が弾けないけど、音楽のパズルを解く能力を備えているの」と語るのはブリス(以下同)だ。そこに、仏教徒であるマキシがスピリチュアルで思索に満ちたリリックを加えるのである。また同世代の他のアクトと同様、彼らの音の核にあるのはハウスとヒップホップで、フロア・アンセムを多数送り出してはいる。が、その表現はゴスペルからレゲエ/ダブ、フォークまでを網羅し、ずば抜けたクロスオーヴァー力を誇るものだ。一方、もっぱらライヴ活動で支持を固めてきた点も、むしろロック・バンドに近い。

「もともとスタジオ・ユニットのつもりだったからライヴをするのは想定外で、ファースト・アルバム『Reverence』が売れなくて仕方なくツアーを始めたのに、気付いたら5,000人級の会場で演奏していたわ(笑)」。

 2年に及ぶそのツアーを経て、2作目『Sunday 8PM』(98年)で自分たちを巡る環境の変化を内省的に検証。続く『Outrospective』(2001年)では精神的な余裕や自信をアップビートなサウンドに映し出し、この間にファンを着々と増やしていった。

「すべてが自然だったわ。人々はクラブで曲を耳にし、ライヴを観に来て、アルバムを買う……という具合にね。時間はかかったけど、音楽主導でここまで到達したことを誇りに感じてるの」。

 そんなフェイスレスは、このたび初のベスト盤『Forever Faithless : The Greatest Hits』をリリースしてキャリアに区切りをつける。同作で聴ける新曲“Reasons”は今後の進路を示唆するものではないようだが、「次の作品のひとつの可能性としてライヴ・バンド的なアプローチを検討中」とブリス。と同時に“Mass Destruction”が象徴するとおり、昨今の世界情勢を受けて強まっているメッセージ性を、何らかの形で継続させたいともいう。

「ダンス音楽って単純に聴いてて楽しいんだけど、そういう音楽で我々が生きる時代や世界を語っても構わないはずよ。政治は退屈でも究極的に人間に関わる問題だし、人間は退屈じゃない。ヒューマニティーにこだわることに、フェイスレスならではの表現の立脚点があるんだと思うわ」。
▼フェイスレスの近作。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月16日 13:00

更新: 2005年06月16日 19:54

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/新谷 洋子