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インタビュー

ハンバートハンバート

ふくよかなメロディーがいろんな風景を描き出す、新作『11のみじかい話』が完成!


 音楽に恋してる音楽だよなぁ、と。ハンバートハンバートを聴くたびに胸焦がれる思いがするのは、音楽に込められた恋心、理想の音楽を夢見る気持ちを見つけ、自然と共有してしまうからなのだが。どうもうまく言えてないな。彼らの魅力は言葉にしづらい。本作『11のみじかい話』は彼らにとっての4枚目のアルバム。ルーツ・ミュージック的志向を強めながら、一歩一歩着実に歩みを進めてきた2人の現状を映し出すアルバムに仕上がっている。

「前作はスタジオでどうやって録音するかを考えてレコーディングしたけど、今回はバンドでライヴのサウンドをそのまま持ち込んだんです」(佐藤良成、ヴォーカル/ギター)。

 ざっくりとしたアーシーなバンド・サウンドが2人の描く歌世界を照らし出す、そんな効果が生まれている。

「前は、細かいことでクリックを使わないとか、やりたくないことは避けるようにしていたけど、いまはそういうのがなくなってきて。本質的なことにしっかりこだわり続けていれば、って」(佐野遊穂、ヴォーカル)。

 ここにきて、ちょっとやそっとじゃ揺るがない自信を獲得したということだ。確かに、2人の歌はいままでにないほど、温かい。

 2人のフェイヴァリット・ミュージシャンを訊いてみた。佐野は、〈荒井〉時代のユーミン、佐藤はボブ・ディランにトム・ウェイツにジョン・フォガティ(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル)の名を挙げた。この3人の共通項は?

「虚構を巧みに描ける人ってことですね。彼らが物語を追い求めるところ、本物の世界に対しての距離感の取り方がいいですよね。ただ、僕がドラマを演じきれるタイプかっていうと、そうではなくて。だから彼らには憧れを抱いてしまうんです」(佐藤)。

『11のみじかい話』を聴いていると、初期のフェアポート・コンヴェンションやフォザリンゲイといったブリティッシュ・フォークを思い出す。憧れを抱くアメリカ音楽をプレイする喜びを溢れさせたそれらのバンドの素晴らしいアルバム。理想の世界との距離感、憧れが生み出すときめき、そういうものが彼らの音楽とピタリ一致するのである。

 佐野が、「日曜大工に凝っていて……」とぼそっと洩らす。その時、なんてハンバートハンバートっぽい響きだろう、と深く納得してしまった。日曜大工、木洩れ日に照らされた庭と緩やかな時間の流れというイメージが頭の中でこのアルバム『11のみじかい話』とやんわりと重なり合った。またしてもうまく言えてないけども。

▼文中に登場したアーティストの作品を紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月16日 13:00

更新: 2005年06月16日 17:04

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/桑原 シロー