インタビュー

Triniti


 レゲエとヒップホップだから『Ragga Hop』。なんとも直球のタイトルを冠したファースト・アルバムが輸入盤の段階からジワジワと人気を獲得し、このたびの日本盤リリースをもって本格的な日本上陸を果たしたトリニティ。いくらこのルックスとはいえ、それだけでブレイクできるほどミュージック・ビジネスは甘いもんじゃないわけで、その成功の秘密は今作のなかにこそある。

「ダンスホール、ヒップホップ、R&B……そのいずれもが私の根底にあるの。アルバム・タイトルを〈Ragga Hop〉という造語にしたのもそういう理由。むしろ子供のころからの生活環境にこそ影響を受けてきたと言えるかもしれないわ」。

 彼女はトリニダード・トバゴ人の父とアメリカ人の母の間に生まれたハーフ・カリビアン。UKとカリブを行き来しながら、現在はLAを拠点に活動を行っている。

「ここLAでは、みんな自分のことは自分でやるの。マイアミやNYに比べてシーンもすごく小さいし、私たちのようなカリビアン自体が少ない。でも、私たちがいるの。つまり、Eディー、ジュニアP、そしてファザー・タイムス。みんなジャマイカ出身で、今はLAに住んでいるアーティストたちね。彼らはみんなこのアルバムにフィーチャーされているし、ショウもいっしょにやるの。何が言いたいかというと、私たちに特別な名前はないけれど、クルーなの。ファミリーみたいなものなのよ」。

 トリニティの出自、そして活動環境は、彼女自身も話すようにこのアルバムに大きな影響を与えている。つまり、ジャマイカでも、UKでも、それこそNYでもこんなアルバムは生み出されなかっただろうということだ。いくつものスパイスがLAの視点からブレンドされた今作には、情報の少なかった彼の地のアンダーグラウンド・シーン、しかもそのもっともフレッシュな部分を濃縮したような魅力もある。シンガー/シング・ジェイ/DJと素早くスイッチしながら、およそレゲエ的ではないトラックに楽々と乗ってみせる冒頭曲“Based On A True Story(Mama Told Me)”などはその象徴的な1曲だろう。と思えばアルシア&ドナ(70年代に活躍した女性レゲエ・デュオ)の“Uptown Top Rankin'”をリメイクしてみたり、ショーン・ポール“Gimme The Light”でお馴染みのプロデューサー、トロイトン・ラミを迎えてみたりと、レゲエ・シーンに向けての目配せも的確。一方ではカルチャー・クラブの〈君は完璧さ〉を清涼感たっぷりにカヴァーしてみせる……と書けば、そのステップの軽やかさをお分かりいただけるだろうか。

「私は、自分の音楽で新しいジェネレーションを表現したかったの。カルチャーのブレンドから物事を学んで、それらを通して自分たちを表現する人々が多く存在するんだってことを。私たちはブラックでもホワイトでもない、その間のグレイ・エリアの一部なの。ちょっと拡げて言えば、ロンドンにおけるミス・ダイナマイトとも似たようなものを持っているのかもね」。

 地元で行われたD12やJ・クォンのショウではオープニング・アクトを務め、今作には収録されなかったもののサラーム・レミやスティーヴン“レンキー”マースデンといったトップ・プロデューサーによる楽曲も用意されているというトリニティ。ちなみに彼女、かつては将来を有望視されたテニス・プレイヤーだったそう。

「そうなの。(アメリカン・)フットボールのイヴェントでアメリカ国歌を歌ったり、ベースボールのエキシビションで5万人の前で歌ったりもしてたんだけど、それを観た父が1年間だけ音楽活動を続けるのを許してくれたの。そうして1年が過ぎ、もう1年、さらにもう1年……そして今、私はここにいる。もうテニス・プレイヤーには戻れないわね(笑)」。

 父上やテニス界が彼女の復帰を望んだとしても、こんなアルバムを残したら音楽界が彼女を手放さないよ、ホント。

PROFILE

トリニティ
トリニダード・トバゴ出身。幼少の頃よりUKとカリブを行き来しながら育ったコスモポリタンなダンスホール・シンガー/DJ。15歳でウィンブルドンのジュニア選手権に出場し、大学にはスポーツ奨学生として入学するなどテニス・プレイヤーとして注目を浴びる一方、17歳の時にシンガーとして自主制作の初アルバムを発表する。以降、アンダーグラウンドな活動を続けていたが、ビーニ・マンやD12のオープニング・アクトに抜擢され、一躍話題に。その勢い冷めやらぬなか、スティーヴ・モラレスやトロイトン・ラミらの強力バックアップのもと、2004年に本格デビュー・アルバムとなる『Ragga Hop』(Beverly Martel/東芝EMI)を制作。このたび、その日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月23日 13:00

更新: 2005年06月23日 20:50

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/達磨 剣