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インタビュー

風味堂


 名曲量産態勢にあり。そんな勢いが漲る風味堂のファースト・フル・アルバム『風味堂』には、鼻歌のヒット・チャートがあれば上位にきそうなメロディーが詰まっている。これまでのミニ・アルバムのクォリティーを遥かに超えていて、〈いよいよ来たな〉という印象を抱かせるのに十分な作品に仕上がった。CMソング“楽園をめざして”“ナキムシのうた”(ボーナス・トラックに名曲“Swinging Road”のライヴ・ヴァージョンも収録!)も入った本作からは〈これからいきますよ!〉って頼もしい声が聞こえてくるじゃないか。2003年のインディー・デビューから2年、まずは進歩の実感をどんなふうに掴んでいるのかを訊いた。

「スキルがついたっていうより、何がいいのかを見分ける力がついたと思います。前は、一曲最後まで間違いなく演奏できることでOKだったけど、たとえ間違えていたとしても、その場の空気が良ければ問題なしって判断ができるようになった。あと、3人でガッといくだけでなく、誰かを立てるためにさっと引く、みたいなバランスの取り方はうまくなったかも」(渡和久)。

 楽曲における甘さとしょっぱさの調節や演奏の緩急のつけ方など、確かに微妙なバランス感覚を上手く働かせているな、と思わせる点は多々見られる。坂を転げ落ちるようにパンキッシュな演奏を披露する場合も(ここが彼らの魅力だが)、ちょっといなせな感じでラテンっぽくキメる場合も(これもまた魅力)、違和感を生じさせることなく、これが風味堂的だと納得させる力がアップした。

「オレら、これからもっと上達していくはずですよね。でもあえてそう感じさせない演奏ができたらな、と。だから今のウマさがちょうどいいかも(笑)。なんでもできるようになったら、あれ、なんで昔みたいなピークが取れないんだろ?ってことを言ってるかもしれない。曲の世界観に合わせて上手にも下手にもなれるのが理想」(渡)。

「エゴが入ってきちゃうとマニアックな方向に行ってしまって、狭い範囲の人にしか聴いてもらえなくなる。偏りたくないんですよね」(中富雄也)。

 なるほど、そういう心掛けは大事です。ただひたすらに理想形を追うのでなく、楽曲の個性を確かめつつ柔軟に自分たちを動かしていくこと、風味堂はそれをめざす。そもそも彼らは結成時から、まったくコピーやカヴァーをやらずにオリジナルのみで勝負してきたという。

「だいたいどのバンドも趣味の共有から始めますよね? でも、それでアルバムを作るとひとつの色しか出せなくて、聴いてて飽きちゃうことも多くある。オレらは最初から世界を狭めたくなかったんです」(中富)。

「とにかく、〈カッコいい〉って基準がいっぱいあるから、それがたくさん枝分かれして風味堂が一本の木になっている感じ。3人とも音楽的にオープンだから成り立っているバンドなんです。だからいろんなタイプの曲ができる」(鳥口マサヤ)。

 これだけと思ったら大間違い、そう言いたげな表情。現在のオレらのヒット・チャートはこれです、と語っているような本作『風味堂』は、さながら〈季刊風味堂〉といった趣き。

「今のところ俺は〈いい人〉の曲しか書けてないんですよ。自分の弱いところ悪いところを曝け出して、それを人が聴いて、〈うん〉と言ってもらえるようになればなぁ」と渡は話す。音楽で人を包み込むことができるように成長していきたいのだと。絶妙な関係性を意識しつつ、3ピ-スならではのシンプルで粘り気のある演奏を披露する風味堂。ひとつ曲が生まれるたび、彼らはまたさらにレヴェルアップしていくのだろう。そんな未来がこのアルバムに映し出されている。

PROFILE

風味堂
渡和久(ヴォーカル/ピアノ)、中富雄也(ドラムス)、鳥口マサヤ(ベース)から成る3人組。2000年に福岡で結成。渡と中富が出会い、最終的に鳥口が加入することでギターレス・バンドという現在のスタイルになり、地元九州で開催された数々のバンド・オーディションで好成績を残す。2003年より活動の拠点を東京に移し、同年4月にインディーからミニ・アルバム『花とりどり』でデビュー。12月にミニ・アルバム『sketchbook』をリリース、2004年7月のシングル“真夏のエクスタシー”はスマッシュヒットを記録。同年11月にはシングル“眠れぬ夜のひとりごと”でメジャー・デビューを果たした。このたび、ファースト・フル・アルバム『風味堂』(スピードスター)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月30日 16:00

更新: 2005年06月30日 19:25

ソース: 『bounce』 266号(2005/6/25)

文/桑原 シロー