Nikka Costa
メイシー・グレイを思わせるエッジの立ったヴォーカリゼーション、プリンスさながらの鋭いシャウト、そこにぴったり寄り添う骨太でファンキーなロッキン・グルーヴ……ニッカ・コスタのニュー・アルバム『Can'tneverdidnothin'』はそんなふうに幕を開ける。評価の高かった前作『Everybody Got Their Something』から実に4年ぶりの新作となるが、実際は昨年リリース予定だったものだ。その間に自身の方向性に迷いが生じたことはなかったのだろうか。
「前作は正直なところ、キャリア的な成功という面では不満があった。でも、聴いてくれた人の心を捉えたのは確かね。今回はその人たちの期待がかかってるのよ。何か画期的で、他とは違うものが求められてるんだと思う。だからこのアルバムでは、他のどんな女性シンガーとも違う私のオリジナリティーを前面に出したかった。自分の好きなこと、人がやらないことをやるというアティテュードはずっと変わらないわ」。
そう話す一方で、前作のセールス的な失敗を考えて「お尻に火がついた感じはあったわ。だから、今回は一般ウケも狙っているわよ」と正直に語る彼女。「友人のクレイグ・ロス(レニー・クラヴィッツ・バンドのギタリスト)といっしょにジャムった時にこのグルーヴが生まれた」のだという先行シングル“Till I Get To You”にはそのクレイグやレニー・クラヴィッツも演奏に加わっており、今作の中核を成すのがその延長線上にあるキャッチーなロック・チューンであることは間違いない。ただ、ニッカの身体にソウル/ファンクのグルーヴが流れているのもまた事実なのだ。
「〈ロック・レコードを作るんだ〉と言って始めたのに、ファンクばかり書いてしまって。それで思いきりロックな曲もレコーディング途中で作ったりしたのよ」。
実際、アルバムにニッカらしさをもたらしているのは、ジョス・ストーンあたりにも通じるオールド・ソウル風味のバラード“I Gotta Know”や、ニッカの公私に渡るパートナーであるジャスティン・スタンレーの引き算的アレンジがハマッたストレンジなファンク“Swing It Around”、さらにはコンガとボンゴ、カリンバが紡ぎ出すパーカッシヴなグルーヴに急き立てられたようなアイク&ティナ・ターナーのカヴァー“Funkier Than A Mosquita's Tweeter”などのように思える。
「ママがソウルに入れ込んでいたから、私も子供の頃から大好きだったの。私にも子供なりにイヤなことがあって、ソウルだけが私の気持ちをほぐしてくれた。ソウルでは喜びも哀しみも同じなの。ハッピーな歌にだって涙がある。そこに惹かれるのよ」。
ちなみに今作のタイトルになった〈Can't Never Did Nothin'〉はその母親の口癖だった言葉らしい。
「子供の頃から聞いてたのよ。〈アンタならできる!〉〈文句を言ってる間にやりなさい!〉みたいな意味なんだけど、クールじゃない?」。
そんな〈クール〉な作品を締め括るのは、ニッカが10歳の時に他界した父親ドン・コスタに捧げた“Fatherless Child”だ。
「私はあんまり説明的な歌詞が好きじゃないから、父についても書いたことがなかった。でも、今回は勇気を奮ってパーソナルな内容で書いてみたの。それでジャスティンに聴かせたら、〈いますぐレコーディングしよう〉ってことになって」。
ドンはフランク・シナトラやポール・アンカを手掛けていた超大物プロデューサー。それだけに二世タレント扱いを嫌った彼女は苦労したこともあるようだが、そんなこんなを乗り越えての“Fatherless Child”は、だからこそ余計に感動的だ。このように、母や父から得たサムシングを素直に作品へと活かした『Can'tneverdidnothin'』。エッジーな音像の奥に何か温かいものを感じたなら、それはきっと彼女のソウルが伝わったということなのだろう。
PROFILE
ニッカ・コスタ
72年生まれ。名プロデューサーであるドン・コスタの娘として生まれ、多くのアーティストと日常的に接しながら育つ。父のプロデュースによる最初のレコーディングを8歳で経験し、81年にスタンダード曲を歌った『Nikka Costa』で正式デビュー。90年代半ばまでに数枚のアルバムをリリースしていくが、ソウルフルな音楽性を志向して活動を一時休止する。再デビュー・アルバムとして2001年にリリースした『Everybody Got Their Something』が高い評価を浴び、その後はケブ・モやマーク・ロンソンの作品、フェラ・クティ・トリビュート・アルバムなどに参加。このたび4年ぶりのニュー・アルバム『Can'tneverdidnothin'』(Cheeba/Virgin/東芝EMI)がリリースされたばかり。