インタビュー

Harvard


 日本はおろか、UKやドイツ、フランスなどの海外も視野に入れた(昨年は韓国盤もリリース!)活動を続けるエスカレーターの敏腕社長、仲真史のハートを射止めた弱冠21歳(当時)の2人組、HARVARD。「デモテープを渡した次の日に仲さんから電話がかかってきた」というシンデレラ・ストーリーから3年の時を経て、彼らがセカンド・アルバム『ORACLE』をリリースする。

 デビュー・アルバム『lesson』では、ボサノヴァもギター・ポップもハウスも現行のR&Bビートに流し込み、ファーストフード世代的ジャンクさでもってブランニューなソウル・ミュージックを築き上げた。クラブ・ミュージックでありつつ部屋聴きも対応可のハイブリッドな音楽として、瞬く間にその名を知らしめたミュータントが生み出した新作は、ビートがシンプルながら立体的構造を持ち、メロディーメイカーとしての骨格はますます明確になっている。メイン・ソングライターである小谷洋輔に、まずは『lesson』から新作までの2年という期間について訊いてみた。

「本当は『lesson』のあとにシングル“A.N.O.T”をリリースして、すぐにアルバムを出す予定だったんです。でも、個人的な事情というか……クラブで遊んだりするのが忙しくて作ることができなかった(笑)。で、仲さんから〈いいかげんに作れ〉って言われて作り始めたらポンポン曲が出来上がって。クラブでカッコいい音楽を聴いた後に家に帰ってギターを持つと曲が出来てたりするんですよ(笑)」(以下同)。

『ORACLE』が、本当にクラブ通いの賜物なのかどうかはリスナーの皆さんの判断に委ねるとして……。このエピソードからも窺えるように、彼らは重度のリスナー体質を持つアーティストである。どのくらい重度なのかというと、「自分がよく行くレコード屋さんにある12インチの新譜は、とにかく全部チェックする」ほどなんだとか。

「最近はあんまり〈どのアーティストが好き〉とか言わないようにしたいなと思っていて。ヨーロッパのキツネなんかはアーティスト集団なんだけど、レーベルやファッション・ブランドをやってたりする。そういう風に、アーティスト単独じゃなくてカルチャーの一部として音楽を捉えたいんですよ。僕らは元々スケーターで、洋服も音楽もアートも知るキッカケはスケートから入っているんです。だから、そういった洋服やアートなんかのすべてを含めたカルチャーとしてカッコいいものを作っていきたいですね」。

 まだまだ23歳。話し方や振る舞いに幼さが残る彼ではあるが、熟練した技術や考え抜かれた理論よりもセンスを選ぶフットワークの軽さの裏には、こんな考えがあるのだという。

「上の世代の人たちがやっていることがどうでもいいというわけじゃないんですけれど、いま僕らが見ているのは自分たちと同世代か、もっと下の世代なんです。例えば、同じ音楽を作っていても、若い世代と上の世代だと意味が違うと思うんですよ。それに、歳上の人に褒められるより、高校生に〈カッコいい!〉って言ってもらったほうが嬉しいじゃないですか。そういう若い世代のいいバンドってこれからたくさん出てくるだろうから、そこを引っ張っていくような存在にならなきゃいけないと思っています」。

 アルバム・タイトル〈ORACLE〉の意味は〈予言〉。〈授業〉を修了し、その後に訪れた〈予言〉が、今後の日本の音楽界にどのような種を付け、また実っていくのか。いまはまだ確かなことは言えないが、ひとまずこのアルバムが大きなインパクトとなることは間違いないはずだ。

PROFILE

HARVARD
小谷洋輔(ヴォーカル/ギター他)、植田康文(ギター/ターンテーブル他)から成る広島出身のポップ・デュオ。大学在学中の2002年にエスカレーターと契約を結び、5月にシングル“Urban”でデビュー。〈R&Bのビートとギター・ポップ的メロディーの融合〉をコンセプトに掲げた同曲が高い評価を得て、翌2003年にはファースト・アルバム『lesson』をリリース。その後もレーベルのミックスCD『We are Escalator records Part.4』を手掛け、韓国でのCDリリースやライヴを行うなど精力的な活動を続ける。また、サイクル・チーム=CIVILTAのメンバーとしてコンピ『CICLISMO 2』にも参加。このたび、セカンド・アルバム『ORACLE』(エスカレーター)を7月7日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年07月07日 10:00

更新: 2005年07月07日 19:24

ソース: 『bounce』 266号(2005/6/25)

文/ヤング係長