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インタビュー

Kaiser Chiefs


 英国人のユーモアってやつはどうにもこうにもアイロニカルでシニカルで、真正面から受け止めただけではその本質を見せてくれない。さらに、その屈折したセンスを理解できるかどうかは受け手にもそれなりのセンスが要求されるわけで、額面どおりに取ってしまうとその旨味の半分も味わえずにほぞを噛むこともしばしば……。

 今回ご紹介するカイザー・チーフスも、真正面から受け止めてしまえば最近話題のポエット・パンクであり、強烈な〈ナナナナー♪〉のインパクトが強い、いわゆる〈UK期待の新人バンド〉のひとつ。しかし、いざ裏を返してじっくりと見てみれば、ロック/ポップスの歩んだ40年の歴史から生じたさまざまなトピックが複雑に交錯していて、それらを2005年的な発想で一度解体、そしてカイザー・チーフスという若者たちの想像力で再構築されていることがわかるはず。そういった意味でもこのファースト・アルバム『Employment』は、これから先のシーンを展望するうえでとても重要な作品なのである。そこに気付いてしまうと、改めて彼らの優れたセンスと器用さに驚かされる。

「いや~、そういうふうに言ってもらえると本当に嬉しいよ。僕らは純粋に、それまで1年半かけて書き溜めた曲を、いちばん良いかたちでレコードにしたかっただけで、それ以上の目標も期待も、なにもなかったんだ。だから日本の人にもそういうふうに褒められて、すごく自信になるよ。褒められるのは好きだからね(笑)」(ニック“ピーナッツ”ヘインズ:以下同)。

 では、具体的に影響を受けた音楽を挙げてもらおう。

「真っ先に挙げられるのはノーザン・ソウルだね。最初にみんなと知り合ったのも、ソウル系のクラブだった。あとはビートルズにキンクスにスモール・フェイセズ。最初のデモを作っていた頃は、ビーチ・ボーイズをたくさん聴いたね。ハーモニーという点で彼らの右に出る者はいない。XTCとかワイアーとかにももちろん影響されている。あとデュラン・デュランとか、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズあたりも。偉大なポップ・ミュージックならすべてルーツさ」。

 そして今回、どうしても訊きたかったのは〈ブリット・ポップ〉のこと。カイザー・チーフス登場以前まで、ブリット・ポップからの影響は禁句に近い風潮があり、公言が憚られるのは当然のことだった。しかし彼らの場合、思春期のもっとも多感な時期がブリット・ポップ全盛期と重なり合っていたことの重要性、そしてそこからの影響を大いにアピールしている。

「94年、僕は16歳だった。この年にカート・コバーンが亡くなって、オアシスがファースト・シングルを出したんだ。この時、僕らの音楽観は変わったと言っても過言じゃないよ。スマッシング・パンプキンズやニルヴァーナに夢中になって、その後みんなはどんどん長髪からショートヘアになった(笑)。いい時代だったね。いっぺんに視界が開けたって感じ。ブリット・ポップと呼ばれる時代は、僕らみたいな若者にたくさんの可能性を与えてくれたよ」。

 ところで、新作に付けられたシンプルなタイトルが意味するものは?

「2つの意味があるんだ。ひとつは、アルバム作りは他の仕事(=エンプロイメント)と並行しながら行われていたということ。もうひとつは、やっとレコード契約が結べたことで、バンドこそ僕らのエンプロイメントだ!ってこと。アルバムは、2年間の僕らの生活を歌った物語みたいなものさ。苦労から生まれたサクセス・ストーリー……ってちょっと大袈裟かな(笑)」。

 そして、ポール・マッカートニーやノエル・ギャラガーも絶賛する彼らの楽曲が、ついに生で聴ける時がくる。その舞台は今年の〈フジロック〉!

「(ステージは)みんな〈新しいんだけどどこか懐かしい〉って言ってくれる。それって最高の褒め言葉だよ! 〈フジロック〉はとても素敵なフェスだと聞いてるし、初めての日本が待ち遠しいね!」。

PROFILE

カイザー・チーフス
2003年夏にリーズで結成。リッキー・ウィルソン(ヴォーカル)、ニック・ホジソン(ヴォーカル/ドラムス)、アンドリュー・ホワイト(ギター)、サイモン・リックス(ベース)、ニック“ピーナッツ”ヘインズ(キーボード)から成る5人組。2004年3月にドローンド・イン・サウンドよりファースト・シングル“Oh My God”をリリース。同年10月に自主レーベル、ビー・ユニークを設立。同レーベルよりリリースされたシングル“Riot”がUKチャートTOP20を記録する。今年に入ってユニバーサルと契約し、3月に本国でリリースされたファースト・アルバム『Employment』(Universal/ユニバーサル)の日本盤がこのたびリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年07月14日 16:00

更新: 2005年07月14日 17:26

ソース: 『bounce』 266号(2005/6/25)

文/冨田 明宏