こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Kid Sublime


「僕の中では〈クロスオーヴァー〉は存在しない。音楽そのものがひとつの大きな〈クロスオーヴァー〉だと思うんだ。ヴァイブがいっしょになって音楽になる。色もないし、名前もない。ただ感じ、創造するだけだよ」。

 ひとつの音楽を土台にさまざまなジャンルの波を跨いでいく――世界各地に点々と存在する音楽的知性が向かうその方向には、〈クロスオーヴァー〉というラベルが貼られている。しかし、そのラベルの傘下にあると思われるアーティストたちの意識は、そのような括りを超える、もっとしなやかなものだ。レッドノーズ・ディストリクトとしての活動に区切りをつけ、ソロとしての歩みをスタートさせたキッド・サブライムもまたそうしたアーティストのひとり。オランダの注目レーベル、キンドレッド・スピリッツからリリースされた彼のファースト・ソロ・アルバム『Basement Soul』は、その自然で飾らない作業の集成であり、コズミックな音の広がりに凛としたソウルが立ち上がる〈クロスオーヴァー〉作品となっている。しかし、ヒップホップをみずからの音楽ルーツに据える彼は、思った以上にヒップホップへの思い入れが強く、そこにみずからの音楽を規定してもいる。

「僕からするとこれはヒップホップのアルバムだよ。ラップはほとんど女性ヴォーカルがやってるけどね。それが僕自身だし、そこから離れることは不可能だね。それと僕はコンセプトっていうものが好きじゃない。ドグマが好きなんだよ。『Basement Soul』はキッド・サブライムそのもの。ひとりの人間、ひとつのマシーン、そしてひとつの愛(One man, one machine, one love)なんだ」。

 レーベルメイトのジャネイロ・ジャレルや、レディ・アルマ、かつてバンド仲間として活動を共にしたスーコ103のリリアン・ヴィエイラなど、ヴォーカリスト/ラッパーも多く迎えた本アルバムのビートは彼の「内なるアイデアを声にしたもの」。そうしたフィーチャリング・アーティストとの作業のカギを握っているのも「すべてヴァイブなんだよね」と彼は説明する。このあたりは裏のない彼のパーソナリティーの表れだ。

「参加アーティストはみんなそれぞれ個性的で、彼らがスタジオで気持ちを高めて、アイデアを理解し、いっしょに何かができるかどうかは僕にかかってる。だからいっしょに仕事をする仲間とわかり合うことって凄く大事なことだと思うんだよ。いっしょにタバコとかを吸ったり、酒を呑んだり、お茶したりメシを食ったりしてね。そうすることで心が開けて打ち解けるようになれば、可能な限り深く付き合えるようになると思う。そして僕がそうすることができたから、『Basement Soul』がいまここにあるんだよ」。

 ピート・ロック、DJプレミア、ロード・フィネス、ロブ・スウィフト、グールー、ネイティヴ・タン、マッドリブ、J・ディラ、ワジード、さらにはウェルドン・アーヴァインやクインシー・ジョーンズ、セロニアス・モンク――みずからシンパシーを感じるアーティストとして挙げた人々(その一部はアルバムのアウトロでも名が挙げられている)を「同じ言語で話している」と語る彼は、みずからもそこに名を連ねるべく、音楽を作り続ける。

「次のアルバムはSP-1200にこだわって作ろうと思ってる。これって自分の原点に回帰してるってことだよね」。

 そこでは彼の音楽観がよりいっそう露わにされることだろう。

PROFILE

キッド・サブライム
81年、オランダはナーデン出身。5歳でドラムとピアノを始め、音楽の道を志す。15歳の頃に友人とハードコア・バンドを結成、その活動のなかでスケボーやヒップホップに出会う。やがてDJイングに傾倒し、国内のDJコンテストで優勝。99年にスーコ103のツアーDJに抜擢され、アムステルダムを中心にクラブ・プレイも開始。並行してレッドノーズ・ディストリクトを結成し、2003年に『Iller Dan Je Ouders』をリリース。2004年よりソロ活動を再開して、EPシリーズ〈Basement Works〉やスヌープ・ドッグ“Drop It Like It's Hot”のブート・リミックス盤などで話題を集める。このたびファースト・ソロ・アルバム『Basement Soul』(Kindred Spirits/Pヴァイン)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年07月14日 16:00

更新: 2005年07月14日 17:25

ソース: 『bounce』 266号(2005/6/25)

文/一ノ木 裕之