なのるなもない
降神の〈なのるなもない〉がソロ・アルバムをリリース。彼がいま見ている景色とは?
ピュア・インディペンデント・アルバムとしては異例のセールスを記録し、MSCらと共に新世代アンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンの一翼を担うTemple ATS所属の降神。そのMCである〈なのるなもない〉が2004年1月にリリースされた降神の2作目『望~月を亡くした王様~』以来、ひさびさの作品リリースとなる初のソロ作『melhentrips』を完成させた。
「ライヴとか、降神としての曲作り、他の人の作品へのゲスト参加とかそういったことがありつつ、実は去年『melhentrips』を作ってはみたんですけど、それを一度放り投げたんです。なんというか、自分で説明し切れなかった。すべてを説明することはなかなかできることじゃないですけど、もっと言いたいことがあったし、以前の作品はただただ〈ポジティヴになればいい〉って言ってるように思えて……俺が言いたいことはそういうわけじゃなかったので、だったら作り直すべきだろう、と。結果、12曲が15曲になり、時間もかかってしまいましたね」。
外に向かってみずからを誇示してゆく表現が一般的なヒップホップ・シーンにあって、内面探求の成果を心象風景やストーリーに託した独特の世界観がシーンの枠を超えた支持に繋がっている降神の作風をよりパーソナルに、より自由に突き詰めた本作。この作品において、彼は現存の表現を否定するのではなく、それとは別の角度から言葉の可能性を果敢にも追求している。
「いちばん最初に言いたいことがあるんですけど、〈やったことのないことをやりたい〉って思うし、その次の絵が見たいなとも思う。そこで韻を踏むことも大切だけど、意味も繋げたい。しかも、瞬間の感情に物語を見い出してしまう自分もいたりするっていう」。
クルー所属のonimasやKOR-1のほか、MSCのO-KIや高校時代からの付き合いであるというYamaanやa.u.mら、近しいトラックメイカーによる曲提供、相棒の志人や地元茨城のLUNCH TIME SPEAXらによる客演を得た彼の表現は喜怒哀楽が交錯し、時に歌うように心象風景を描写すると、限りなく透明に近いブルーな色彩にわずかな光を宿す。その光の先に果たして何があるのか? 彼はそれを見たくて、言葉と共に旅をする。
「自分なりのインナー・トリップを外側から見た視点で映し出せば、みんなも感じてくれるんじゃないかな、と。サイケデリック? 自分で自分のことをそう呼ぶのには抵抗がありますけど、そういう世界観は好きですね」。
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