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インタビュー

曽我部恵一

ささやかに、シンプルにしたためられた手紙のような新作『LOVE LETTER』


 6月にオフィシャル・サイトと下北沢のCDショップ限定でリリースされたアルバム『sketch of shimokitazawa』と、このたび(いつもどおり)リリースされるアルバム『LOVE LETTER』。下北沢の自宅ベランダで雨音をバックに弾き語られた“かげろう”で始まる前者は彼のメロウ・サイドを、小気味よいギター・ポップからハイテンションなパンク・ビートへと展開する“バタフライ”で始まる後者はアグレッシヴ・サイドを印象づけるアルバムだが、そんなふたつのアルバムには、アルバムの完成度や整合性といったものに縛られない、自由な空気/呼吸を共通して感じとることができる。

「はたしてアルバムってなんだろうな?って。〈クリムゾン・キングの宮殿〉とか〈展覧会の絵〉とか、いまはああいうものじゃないでしょ? 昔は年に1枚ちゃんとしたアルバムを出すことが芸術家っぽくてかっこよかったんだけど、いまはそれがかっこいいと思えないんですよ。いま僕にとってのアルバムっていうのは、そのときそのときの日記、ブログみたいなものなんですよね」。

 家族のこと、大好きな街のこと、ロックンロール、夢、本当にささやかなエピソード……そんな12曲で構成された『LOVE LETTER』で鳴っている音、言葉はいたってシンプルでわかりやすく親しみやすい……〈ブログ〉とはまさに。

「うん、シンプルだね。それは自分がいまめざしてるところであって。僕はカーティス・メイフィールドが好きなんだけど、彼って凄く単純な言葉を繰り返してたり、サビとかすごくシンプルなんだよね。ああいうふうにどんどんシンプルにやれるようになったらいいなあって。Aメロ書いてBメロ書いて、さあサビがきて間奏があって次は大サビ、みたいなポップス王道の作曲方法にはだんだん興味がなくなってきてる」。

 変わっていく音楽事情を横目で見据えながら、アーティストとしての深化を止めない曽我部恵一。自身のレーベル〈ROSE〉も勢いを増し、今後の期待も募るばかり。

「ホームページを作ってて思うんだけど、見る側にとっては毎日なにかしらのことは更新してほしいと思うんですよ。で、レーベルもそれと同じような気がしてて。なんでもかんでもではなくて、みんなが楽しめると思えるものであればどんどん出していきたい」。
▼文中に登場した作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年07月28日 13:00

更新: 2005年08月04日 18:24

ソース: 『bounce』 267号(2005/7/25)

文/久保田 泰平