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インタビュー

the ARROWS

ゆっくり歩くからこそ、見えてくるものがある。力の抜けた、それゆえに真っ直ぐ心を射抜くニュー・アルバム!!


「どんどん普通のことがありがたくなってるんですよ。1年1年歳をとって、すごくポジティヴに考えられるようになっていて。1枚目を出した時は、〈急がなきゃ〉みたいなことばっかりだったけど、最近は〈ここまでこれたのは親のおかげだな〉とか、形はないんだけど、身近なものに焦点が合ってきて。肩の力が抜けた感じ」(坂井竜二、ヴォーカル:以下同)。

 the ARROWSの1年ぶり3作目となるアルバムは、良い具合に力の抜けた〈うた〉が際立っている。心地良く裏を打つリズムだったり、ダンス・ミュージックとしての側面をポップスというフィルターを通して表現する、いつもの彼ららしさもさることながら、とりわけ坂井のソウル度高めで伸びやかな歌声、日常に寄り添うように展開される詞世界を色濃く打ち出すことに成功した、アコースティックな佇まいの楽曲群が素晴らしい。

「大きかったのが、永積くん(タカシ:ハナレグミ)。これからのこととか相談した時も〈竜二、多分ね、大丈夫だよ〉って、ソーイング・セット片手にボタンを付けながら言うんだ(笑)。でもテキトーでもないし、ちゃんと考えてくれてて。あの力の抜け具合に結構力をもらった感じ。この前も、〈竜二、スゲー良くなった。またthe ARROWSがthe ARROWSに近付いたよ〉って言ってくれて」。

 納得だ。ともすれば、20代後半特有の焦燥感――周りの友人が家庭を築いたり、社会的地位を築く様を横目で見たりと、純粋に音楽と向き合うことが難しくなるかもしれない時期に出会った彼の存在が、the ARROWSの歩くスピードを少し緩め、スピードが緩んだことで見えてきた景色がこのアルバムには広がっているのだ。また、曲作りの変化も今作が発するイメージにスパイスを加えている。

「〈弾き始めたら一発勝負〉みたいな感じで作ってて。何かできそうだなって時にギターを持って、もう同時通訳みたいに……好きな子とさよならした後に、帰ってきてそのまま作ったりとか。そういう意味で、静かな曲にも熱が入ってるっていうか」。

 前作は掃除が終わった後など、自分がすっきりした状態で曲を書くことが多かったそうで、どこか距離のある印象を受けたのだが、この変化もリスナーとの距離をグッと近付けた要因のひとつのようだ。 寝る前のひと時……〈昨日〉と〈トゥモロー〉の狭間にある〈今日〉の終わり、ホッと息をつくその瞬間に静かに寄り添ってくれる10編の物語。その甘酸っぱさは、あなたの胸にもきっと沁みるはず。
▼関連盤を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年08月04日 13:00

更新: 2005年08月04日 17:50

ソース: 『bounce』 267号(2005/7/25)

文/斉藤 ジョゼ