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インタビュー

Cassidy

渦中のラッパーがニュー・アルバムで堂々のハスラー宣言……これは貴重な逮捕直前インタヴューだ!!


 5月下旬のNY。ニュー・アルバム『I'm A Hustla』からのセカンド・シングル“B-Boy Stance”のプロモ・クリップ撮影を前日に終了したキャシディが、アルバム・リリースに先駆けて、マンハッタンのホテルの一室でインタヴューに応じてくれた。しかしその数週間後、リリース直前にキャシディは殺人容疑で指名手配され、みずから出頭。現在は塀の中でアルバム・セールスの行方を見守っているところだ。

 ファースト・アルバム『Split Personality』からのシングル“Hotel”や“Get No Better”の印象が強かっただけに、新作からの先行シングル“I'm A Hustla”を聴いた時、あまりのイメチェンぶりに驚いた人も少なくないだろう。が、キャシディは“Hotel”について、「あの曲はやりたくなかったんだ。レーベルの判断だったんだ。オレは出てきたばかりのアーティストだったから、レーベルの言うことに従うしかなかった。自分の名前を多くの人に知ってもらうためにね」と告白する。そう、何を隠そう“I'm A Hustla”こそが、フィラデルフィアのストリートでバトル・ラッパーとして名を馳せていた、彼本来の姿だったのだ。

 自分の出所を再度リスナーに知らしめるかのごとく、『I'm A Hustla』は興味深い曲で始まる。前作のタイトル『Split Personality』(=多重人格)からの流れということでもあるのか、その“The Problem Vs. The Hustla”は〈プロブレム〉と〈ハスラー〉という2人のキャシディがバトルをしているという設定なのだ。プロブレムは前作のキャシディで、ハスラーは今作のキャシディというわけだ。ここで、プロブレムはハスラーに〈恥を知れ。お前のアルバムは、(デビュー前に)ミックステープで聴いたのとは大違いだ。メイスにリリックを頼んだのか〉とディスられてしまうのだ。実際にキャシディはインタヴューでも、前作を「ファースト・アルバムだとは思ってない」とまで言い切っている。

「多くのアーティストは他のラッパーの手を借りてゲームに参入するんだ。50セントの場合はエミネムが世の中に〈次はコイツだ〉って言った。ビーニー・シーゲルとかならジェイ・Zがそうした。でも、オレにはそういうふうに太鼓判を押してくれるラッパーはいなくて、自分でやらなければいけなかった。だから、『Split Personality』は、オレが誰かってことをわかってもらうためのものだったんだ」。

 キャシディが「本当の意味でのファースト・アルバム」と呼ぶ今回の『I'm A Hustla』。インタヴューの時点ではマスタリングが終わったばかりだった、出来たてほやほやのアルバムについてはこう語ってくれた。

「前作よりずっとハードだよ。自分自身も成熟したし。オレはこの業界にしばらく身を置いてるから、語ることがたくさんあるんだ。あと、ビートのセレクションも良くなった。いいプロデューサーと仕事することもできたし、自分でビートを選ぶこともできたしね。曲のコンセプトだってほとんど自分で考えた。だから、パーソナルなものができたね。リリックはもっとハードになったし、一方ではもっとディープになった」。

 ディープなリリックと言えば、今回のキャシディは“The Message”というコンシャスな曲を作っている。ソウルフルなトラックの上で、〈ジェイムズ・ブラウン、マイケル・ジャクソン、2パック(本人の声もサンプル)……〉と、刑務所に入ったり罪に問われたことのあるアフリカン・アメリカンの名前を挙げる声が入り、その後、彼はこんなことを言っている。

〈もしお前がブラックなら、ハッスルして、努力して、苦労して、人一倍働かなきゃいけないんだ〉。

 しかし、自分の名前もムショ入りのリストに入ることになるとは……なんとも皮肉な結果になってしまった。殺人容疑の裁判はまだ始まっていないが、もしも何かの間違いであるのなら、〈Free Cassidy!〉とみんなで叫んでサポートしようではないか。

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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年08月04日 10:00

更新: 2005年08月04日 19:18

ソース: 『bounce』 267号(2005/7/25)

文/松田 敦子