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インタビュー

ZUINOSIN


 昼下がりのうどん屋で、一杯呑み屋で、草野球のグラウンドで、立て続けに〈ズイノシン〉という名前を聞いた。どうやら、それがバンドの名前だとわかったとき、頭のなかでは、笑い飯の西田幸治みたいな顔をした落ち武者がギターを抱えて……という図を想像していた。当たらずとも遠からじ、というべきか。

 ZUINOSINは、解体屋になったバイオレンス・ジャックがのびのび仕事をしているような、そんなバンドだった。アルバム『蕊』(ずい、と読む)を聴いて、むせ返りそうなほど濃密な内容に感激した。このタイトル〈蕊〉を辞書で調べたら、〈花の生殖器官〉とある。さらに突っ込んだ独自の意味があるのだろうか。

「はっきりいって、字面のみで選びました。草冠に心が3つ。意味なんていままで知らなかった。 難しいことは政治家に任せて、われわれはやりたいことをやるだけ。それは内容にもいえることですね」。

 とにかく曲ごとの構成が凄まじい。密度が尋常ではない。通常、曲作りはどのようなかたちで行われているのだろう。

「無理矢理脳ミソ再生!!!!!!!」。

 とはいえ、アルバム制作には相当の時間がかかっただろう。

「13、4歳のころに考えたギャグも入っているので、10年くらいかかったかな」。

 録音中のエピソードは?

「エピソードは、10年もかかったこと。 いわば精神と時の部屋で〈LOCK ON〉」。

 ミキシングや構成などで、何か過去の他人の作品で、具体的に理想としてどんなものを念頭に置いたのだろう。

「理想を持たないことが理想です。念頭に置かないことが念頭です」。

 まったくもっておっしゃるとおり。愚問だった。では気分を変えて。“MOW VIG VBACK”などのキャッチーなダンス・チューンへの恐れを知らぬアプローチも彼らの特性だと思うが、こういうポップセンスはどういうものからインスパイアされているのだろう。

「特にこの曲だけ変わってるとも思ってないですけどね。他の曲もよく聴くといっしょだったりしますから」。

 ああ、まったくもっておっしゃるとおり。愚問だった。顔を洗って、新たな質問を。歌詞に「どですかでん」が出てくるが、具体的に影響を受けた映画はあるのだろうか。

「現実が十分に映画なので音楽以外のことに日々影響され続けています」。

 もし、タワレコの店頭でこのアルバムが3か所ディスプレイされるとすれば、それぞれ、どんなコーナーで売られることを望んでいるのだろう。

「現代音楽のところに置かれていたらあとはどこでもいいです」。

 では、好みのタイプの異性(同性でもいいが)がタワレコの店頭で、右手にアルバム『蕊』、左手に持っているもう一枚はいったい何だろう。想像してみてほしい。

「世界のミュージシャンや漫才師、落語家など全員の曲が入ったオムニバス」。

 ではさらに、もし自身が店員だとして、コメント・カードになんと書いてアピールするのか。

「もしかして自分が変な奴なのか?って思ってる人、安心して買って!!」。

 ZUINOSINは、砂十島NANI、カコイヨシハル、ヨシカワショウゴの3人から成る、解体屋をクビになったバイオレンス・ジャックが頼まれてもいないビルを解体しまくっているようなバンドだ。インタヴューのすべての発言のケツに(笑)ではなく(蕊)の文字を見てほしい。

PROFILE

ZUINOSIN
神戸出身の砂十島NANI(ドラムス/ヴォーカル)、カコイヨシハル(ギター)、淡路島出身のヨシカワショウゴ(ベース)から成る3人組。2000年大晦日のゲリラ・ライヴにて結成。当初は5人組だったが、初ライヴ後に砂十島、カコイ以外のメンバーが脱退。翌年、ヨシカワが加入して現在の編成となり、関西を中心にライヴ活動を展開する。砂十島の圧倒的なドラミングをはじめ、アナーキーで他に類を見ない音楽性が話題を呼んで、2004年にはコンピ『HARD MARCHEN in OSAKA』やSPDILL『HOW TO FEEL EMPTY HOURS?』に参加。また、あふりらんぽと共に街頭ライヴを行うなどして注目を集めるなか、ファースト・アルバム『蕊』(デフラグメント)を8月8日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年08月11日 12:00

更新: 2005年08月11日 20:22

ソース: 『bounce』 267号(2005/7/25)

文/安田 謙一