Hal
ジャケや楽曲に漂う童話的なムードといい、マジック・ポップなドキドキ感といい、思わず〈ちゃん〉付けで呼びたくなるバンド名の持つキャラクター感といい、目に入れるどころか毛穴に詰め込んでも痛くないくらいの愛しさを感じずにはいられないバンドが現れた。アイルランドの若き空想家、デイヴ・アレンとその弟ポールが率いるハルは、〈青春〉〈黄昏〉〈白昼夢〉などをキーワードにモクモクとフィクションを作り出して、その中にメタフィクション(作中劇)とでも言うべき物語を生んでしまうチョット奇妙なバンド、と言ってもいいかもしれない。そんな彼らはいったいどのようにしてダブリンから世界に飛び出していったのだろうか。デイヴ君に訊いてみました。
「ジェイムズ(ラフ・トレードのA&R)がダブリンでの僕らのライヴを観に来たのさ。僕らは彼とコネクションを作ってね、ラフ・トレードは本物だ!と確信したんだよ。というのも、彼らは本当にさまざまな音楽を愛してるからね。でも僕たちの誰も、スミスを除いてラフ・トレードの音楽を聴いたことがなかったんだけどさ(笑)!」(デイヴ・アレン:以下同)。
そんなこんなで超名門レーベルとの契約が成立。ストロークス、リバティーンズに続くラフ・トレードの大型新人としてデビューすることになるのだが、ハルはラフ・トレードからデビューしたどのバンドとも似ていない。彼らのサウンドは、例えるならハーパース・ビザールに代表されるようなバーバンク・サウンドや、ハリー・ニルソン、ビーチ・ボーイズ、バッファロー・スプリングフィールド、ザ・バンドなどの70'sウェストコーストとその幻影を象徴するようなアーティストが追求したカントリー/フォーク/ソフト・ロックに近い。
「もちろんそれらのアーティストは大大大好きだけど、それだけじゃないんだよ。僕たちは無数の音楽を楽しんでいるから、そこからさまざまなインスピレーションを受けているのさ。例えばキュアー、エルヴィス・コステロ、ケイト・ブッシュ、U2、サム・クック、エンニオ・モリコーネ……まだまだあるよ!」。
これらをすべて足してしまったらそうとう複雑で取っ散らかった作品になりかねないのだが、〈きな粉に塩をひとつまみ〉的な隠し味として見事に活かされている。デイヴは「それはたぶん運がいいだけだよ」と笑うが、イヤイヤご謙遜! だってハルの楽曲の最大の魅力といえば、誰もが持っている懐かしい既視感ならぬ既聴感を喚起し、思い出の隙間に挟まっていた切ない記憶を引っ張り出して思わず涙を流させたり、胸をキュンとさせたりするあの感覚だ。しかし、ただ黄昏色のイメージに終始せず、それを2005年版のロックにきっちりとアップデートして、自由でポジティヴなメッセージを発信しているのがすごいところ。
「異なったサウンド同士のコンビネーションをとても愛しているからね。あと僕たちは、僕たちの音楽を聴いてくれた人たちを憂鬱にはさせたくないんだ。というのも、憂鬱なことなんて世の中には十分に溢れているんだもの!」。
今年の〈サマソニ〉でも魔法のような白昼夢ポップで、僕たちを憂鬱な日常から解放してくれるんだね!
そりゃありがたい!! 最後に、いま日本では仲違いをしてしまった元相撲レスラーの兄弟がワイドショーで話題なんだけど、兄弟が同じバンドメイトだといろんな意味でやりにくかったりしない?
「まったく問題ないよ。僕たちはくっつき合ってお互いを見つめてるよ。ツアー中に優先しているのは可能な限り楽しむこと。僕ら兄弟はいつも互いの人生のおもしろい側面を見ているし、常にシリアスになりすぎないようにしてるから」。
仲がいいんだねぇ。 あの兄弟にも見習ってもらいたいものでございますな!
PROFILE
ハル
デイヴ・アレン(ヴォーカル/ギター)、スティーヴン・オブライエン(キーボード)、スティーヴ・ホーガン(ドラムス)によって2003年初頭にダブリン近郊のキリニーで結成。同年、兄のデイヴに誘われるかたちでポール・アレン(ベース/ヴォーカル)が加入して、現在の4人編成となる。ダブリンのシュガー・クラブで定期的にライヴを行い、ラフ・トレードと契約を結ぶ。2004年4月にファースト・シングル“Worry About The Wind”をリリース。以降、シングル“What A Lovely Dance”“Play The Hits”が立て続けにヒットを記録。さらなる話題を集めるなか、2005年4月にUKで発表されたファースト・アルバム『Hal』(Rough Trade/felicity)の日本盤が7月27日にリリースされる。