インタビュー

KEN-U

日本人としてのワビサビを備えた稀有なレゲエ・シンガーが、いま大きな一歩を踏み出す!


 HEMO+MOOFIREが主宰するレーベル、BACCHANAL 45から7インチで発表されると共に『ESCAPE』『INDIAN SUMMER』の各ワンウェイ・アルバムにも収録された“Doko”と“YURENAGARA”の2曲がヒットして、昨年あたりから人気急上昇中のシンガー=KEN-U。父親がジャズ好きでトランペットを吹いていた影響もあり音楽には興味があったものの、ひとつのジャンルにのめり込むことはなかった彼がパフォーマーの世界に足を踏み入れたのには、多聞に漏れず同世代の仲間との繋がりが大きいという。後にサウンド・クルー、RACY BULLETの活動をスタートし、いまに至るまで活動を同じくするメンバーといっしょに聴いていたヒップホップからブラック・ミュージック全般に興味を持ち、やがてレゲエの現場へ。その彼がみずからマイクを持つようになったのは98~99年あたりのこと。ルーキー・Dやウェイン・ワンダーなどのジャマイカ勢もさることながら、NG HEADやJUMBO MAATCHら現在も第一線で活躍する日本のDJたちに触発されて、「そういうDJたちと絡めるシンガーになりたい」という希望のもとにキャリアをスタートさせた彼は、作品を出すようになったいまも「自分がなにをやりたいのか、これでいいのか」を常に探しているという。

「俺は日本人だから、持ってるのは日本の感性。レゲエをずっと聴いて育ってきたわけじゃないし、ジャマイカ人の感性とは違うから、その真似をしても無理が出てくる。だからレゲエっぽくしたいとはあんまり考えてない。精神的な部分はレゲエに置きながらもレゲエってものに決めつけないで、自分から自然に出てくるもの、自分しかできないものでやっていかなきゃいけないと思ってるんです」。

 そうした思いを持つ彼にとって、冒頭で触れた2曲を含む自身初のアルバム『Doko』は、さまざまな音楽体験、もっと言えば「生活の中で採り込んだいろんなこと」を歌にして発信したものだ。「世界観は広いけど、ホント自分たちの周りで起きていることをリリックにした」ものだからこそ、アルバムは「クラブ以外でも聴けるもの」にもなった──そうした自負こそあれ、今作は彼にとって「やっと踏み出せた一歩」にすぎない。「自分はまだまだ浅いアーティストだし、もっと深いところに行きたい」と謙虚に語る彼は、「いろんな人に聴いてもらえるように自分のできることも増やしていかないと」とも話す。

「もともとレゲエ自体が〈レゲエ〉っていう中から外を見てるもの。ジャマイカ人にとってはすべてがレゲエで、そこにヒップホップとかロックとかジャズ、ソウルを採り入れて出すものじゃないですか。それに〈こうじゃなきゃいけない〉っていうのもなくて、なにがいいかを自分で決める音楽がレゲエ。だから自分の好きなものが大きな意味でレゲエになればいいと思う」。

 KEN-Uがいまできることを詰め込んだ『Doko』は、彼にとって目標への小さな一歩かもしれないが、そこには疑うことのない歌心が刻みつけられている。そしてそれは、彼がステージに立つダンスの現場へとリスナーを導くひとつのガイドにもなるだろう。RACY BULLETの仲間といっしょに「平日のダンスを充実させたい」と話す彼は今作のリリース後、3か月に渡る全国20か所ほどのツアーに出る。そこでの彼の姿にも注目してみよう。

▼文中に登場したワンウェイ・アルバムを紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年08月11日 15:00

更新: 2005年08月25日 19:24

ソース: 『bounce』 267号(2005/7/25)

文/一ノ木 裕之