インタビュー

toe


 バスの窓から見えた一瞬の風景、あるいは自分にとって大切な誰かの何気ない仕草のように、toeの音楽は言葉や意味を与えることで逃げ去ってしまう。いまやインストゥルメンタル・ロックの代名詞ともいうべき存在として、インディー・シーンの注目を浴びてきた彼ら。待望のファースト・アルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』では、彼らのフリースタイルなサウンドが清々しいほど潔く響き渡っている。

「今回初めてスタジオで(時間を掛けた)レコーディングをしたんですよ、ちゃんと予約入れて。いいですよね、コーヒー飲み放題だし(笑)。でも、ドラムの鳴りなんかは全然違いましたね。ギターも結構、音作りにはこだわりました。普段は全然適当なんですけど」(yamazaki)。

「バンド結成してから、〈本当はこうしたいのに……〉と思いつつできてなかったアプローチが、今回ちゃんとできたと思います。自分のなかで消化できてきたというか、〈この食べ物は、この味が美味しいんだよな〉みたいな感じがわかってきた」(kashi-kura)。

 メロウネスを湛えたツイン・ギターとタイトなベースライン。そのアブストラクトなスペースを表情豊かに染め上げていくドラミングは、まさに〈歌〉そのものだ。見事なバンド・アンサンブルが、エモーショナルなグルーヴを荒々しく織り上げていく。

「歌(ヴォーカル)があるとそれ優先で考えるから、どうしても演奏を抑えることになってしまう。でもインストだからこそ、ドラムで歌うことが可能になると思うんです。でもテクニカルな難しいことはしたくない。簡単なパーツを変な場所で使うことで、おやっと思わせたいんです」(kashi-kura)。

「やっぱり〈エモ〉っぽいコード進行が好きなんですよ。ダークさのなかにも〈ここだ!〉って思えるリフというか、そんな光射す瞬間がないと曲としてはおもしろくない」(yamazaki)。

 シカゴの伝説的バンド、ゴースツ・アンド・ウォッカにインスパイアされてバンドを結成。ペレとのスプリット・シングルをリリースするなど、USのポスト・ロック・シーンとの関係を取り沙汰されることも多い彼らだが、そのベースにあるのは何より演奏することの純粋な快感と熱気だ。

「まあ〈ポスト・ロック〉と定義されることは聴く人の自由ですからね。言われて、ああそうなんだ、って感じです。それならって〈POST ROCK〉っていうベルトのバックルを作って着けていたこともあったけど(笑)。こっちとしては、今やりたいことを形にするとこういう音楽になるってだけかな。だから次のアルバムでは、全編kashi-kuraが歌うかもしれない(笑)」(yamazaki)。

「とてもダンサブルな音楽だと思うし、自分のなかでは大きな意味でダンス・ミュージックだって思ってます」(kashikura)。

 オープニング・ナンバー“反逆する風景”ではSHAKKAZOMBIEのOSUMIを、“メトロノーム”ではクラムボンの原田郁子をフィーチャーするなど、スタイルに彩りを与えながらも軸はブレないハードコアな音。それはtoeというバンドの持つ、しなやかさを伝えてくれる。インストという自由度の高いフォーマットを武器に、4人が展開する自在なアクションの向こうには表現の荒野が大きく拡がっているのだ。

「最近、〈ヤバい〉の代わりに〈ヒドい〉って言葉を使ってて。それって、もう思いっ切りフレちゃってる感じなんですけど、そういう意味でこのアルバムはかなり〈ヒドい〉かな(笑)」(yamazaki)。

 ほんと、このアルバムはちょっとヒドすぎる。

PROFILE

toe
kashikura(ドラムス)、mino(ギター)、yamane(ベース)、yamazaki(ギター)の4人から成るインスト・バンド。2000年末に結成され、ライヴを中心とした活動を開始。2002年にデビューEP『Songs,Ideas We Forgot』をリリース。同年にはペレとのスプリット・シングル『pele/toe split CD ep』をリリースしたほか、BACK DROP BOMBのリミックス・アルバム『REFIXX』にも参加。2003年にはミト(クラムボン)やnano machineらが参加したリミックス・アルバム『Re:designed』をリリース。2005年のコンピ『ROCK MOTOWN』への参加を経て、ファースト・アルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』(CATUNE)を8月31日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年09月01日 16:00

更新: 2005年09月01日 18:41

ソース: 『bounce』 268号(2005/8/25)

文/村尾 泰郎