こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

DAVID BOYLES


  ポスト・G・ラヴとかポスト・ジャック・ジョンソンとか、ここ1年ほど、メディア上でそのような紹介文を目にすることが急激に増えた。それだけG・ラヴやジャック・ジョンソンに惹かれているリスナーが多いということだろうが、おそらくこの人もそうやって紹介されることが多くなるだろうと思う。大学ではジャズを専攻していたというニューカマー、デイヴィッド・ボイルズ。メジャー・デビュー作となるセカンド・アルバム『Thank You』は、ソウル、ファンク、ジャズ、ヒップホップなどあらゆるブラック・ミュージックへの憧憬をアコースティック・ギターが放つ柔和でセクシャルな音色と共に、自分の言葉と声で丹念に綴った一枚だ。

「最初の楽器はドラム。6歳の時に両親がドラムをプレゼントしてくれたんだけど、とても嬉しくて叩きすぎて、その日のうちに壊してしまったんだ(笑)。ギターは16歳のクリスマスの時にやっぱり両親に買ってもらった。で、翌日から1日に5~7時間もの練習を重ねて自分で覚えたんだよ」。

 プリンスを聴いて衝撃を受けたというデイヴィッドは、当初は普通の大学に進学したものの、どうしても音楽の道に進みたくなって再度入学。ジャズを専攻しながらも、方向性にこだわることなく自身の腕を磨き、オリジナルの楽曲を作る毎日を送ることになる。

「R&Bやファンクなどが好きだったから本当はジャズ方面に進むつもりはなかったんだ。戻ったその先がたまたまジャズ科だったってだけで。ただ、とても勉強にはなったよ。アップライト・ベースやアコースティック・ギターも大学で学んだ。それが進化して今のリズミカルでパーカッシヴな自分の楽曲に繋がっていると思うよ」。

 確かにデイヴィッドの書く曲は、波を打って流れるようなメロディーと、切れと弾力のあるリズムとが自然に絡まり合って成立したものが多い。彼が影響を受けたアーティストは、プリンスのほか、ディアンジェロ、レニー・クラヴィッツ、ジャミロクワイなど、いずれもメロディーメイカーとしての資質と、グルーヴ・マスターとしての資質を兼ね備えた希有な才能の持ち主。レコーディングのほとんどを一人でこなしてしまえるようなクレヴァーさはプリンスやレニー・クラヴィッツ譲りだ。『Thank You』より一足先にリリースされていたファースト・アルバム『Bedroom Demos』は1,100ドルで仕上げてしまったそうだが、そうしたフットワークの軽さは宅録のおもしろさを知る者ならではのようでもある。

「完璧主義ではないけど、演奏のクォリティーでどうしても気になるところがあるとミックス・ダウンした後でもすぐに録音し直したくなる。自分で演奏して自分でプロデュースするわけだから、こだわりはじめると永遠に作業を繰り返すような状況になっちゃうんだよね(笑)」。

 とはいえ、現在はトリオ編成でLAを中心にライヴ活動も積極的にこなしている。G・ラヴ、ジョン・バトラー・トリオなどと共演してきているそうで、現地での評判も上々だ。何より歌を聴かせようとする真摯な姿勢が日一日と多くのリスナーを獲得しているのだろう。その屈託のない伸びやかなヴォーカルには、決して〈音楽オタク〉ではなく〈音楽好き〉であるがゆえの素直な説得力もある。自分の歌はきっと多くの人の耳に届くはず、と信じるその姿は照れてしまうくらい眩しい。

「ジャンルを越えているということを意識したことはないよ。ただ自分の中に自然と湧き起こるメロディーを曲に仕上げるということを行っているだけなので、ある意味わがままに、好きなように音楽を作り上げているのが現状かな。そして自分でこのように作り上げた楽曲をCDとして世に出して、多くの人に聴いてほしい。またそのCDを聴いた人がポジティヴに生きてほしいと思ってるよ」。

PROFILE

デイヴィッド・ボイルズ
77年生まれ、ノースキャロライナ出身。LAを拠点に活動するシンガー・ソングライター/マルチ・プレイヤー。幼い頃から教会のクワイアに参加する一方で、6歳の頃からドラムを始める。高校時代に組んでいたバンドではドラムを担当するが、大学入学後は専攻でアップライト・ベース、副専攻でアコースティック・ギターを学ぶなど、あらゆる音楽に触れるようになる。2004年に本国のみでインディーからファースト・アルバムをリリース。同作が日本のコロムビアに送られてきたことをきっかけにレーベル契約を結ぶ。このたびセカンド・アルバム『Thank You』(コロムビア)が日本先行でリリースされ、ファースト・アルバム『Bedroom Demos』(DIAA)も日本でリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年09月08日 13:00

更新: 2005年09月08日 17:26

ソース: 『bounce』 268号(2005/8/25)

文/岡村 詩野