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インタビュー

アナログフィッシュ


 先行シングル“スピード”の、その名の如くダイナミックなスピード感に溢れたピュアなメロディーの奔流に思わずのけぞる。これはちょっとカッコ良すぎやしないか? アナログフィッシュって、どっちかというともっとオルタナティヴで、ねじれ気味で、ありえないセンスが利いていて、一部のロック好きがニヤリとするような音楽を作っていたんじゃなかったか? とか思っていたところへ駄目押しの一撃を叩きつけるのが、待望のニュー・アルバム『KISS』である。これはほんとに素晴らしい。メロディーはきわめてキャッチー、コーラス・ワークは華麗にして緻密、サウンドはクラシック・ロックからポスト・ロックまでを軽く行き来して自由自在。そして下岡晃と佐々木健太郎というまるでタイプの異なるソングライターの作る、多様な世界観がカラフルに交錯する歌詞のおもしろさ。いきなり名作である。

「特にコンセプトとかはなかったんですけど。去年インディーの時のリイシュー盤を出して、それが自分たちの基盤を表したものだったので、それを超えるような〈とにかくいいものを作ろう〉とは話してました。特に“スピード”とかは、今までとは違った意識で作ったし。よりたくさんの人に届けられる曲はどうやったら作れるんだろう?って。それがうまく形にできました」(佐々木)。

「〈より多くの人に〉って、3人でそういう話をしたわけじゃないけど、ライヴでの気分も、だんだんとそうなってきてますね。お客さんがあきらかに興味を示してくれてるとか。意識してそれに応えようとはしてないけど、自分のプレイや心持ちが、だんだんとそうなってるんじゃないかな、と」(斉藤州一郎)。

 初期衝動的魅力がたっぷり詰まったリフが炸裂する“リー・ルード”(誤植に注意!)から始まり、“スピード”で加速し、既発ミニ・アルバムからリミックスされて再収録された“Hello(!!!?mix)”、スタンダード感に溢れる哀愁メロディーが泣ける佐々木作の“いつのまにか”を経て、ライヴでお馴染みの下岡による名曲“Town”へと連なる前半部の色鮮やかさ。佐々木のブルージーな独白“処刑台に立って”から“BGM(!!!!!-?mix)”“月の花”とライヴの定番曲を経て、ゾクッとする怖さを秘めた“ハーメルン”へと至るディープな中間部。美しく重ねられたコーラスがスケールの大きなメロディーを引き立てる“Queen”、佐々木の得意とする痛いほど内省的なラヴソング“僕ったら”、そして“ナイトライダー2”の、穏やかな余韻を残す映画的なエンディングまで。見事に粒の揃った全12曲である。

「“Hello”や“BGM”みたいな古い曲も入ってますけど、それも現在でしかない。昔とか、今とか、未来とか、ぜんぜん気にしてない。その時のまとまりの単位だけ。どっちかといえば、みんなにはこの先のほうを感じてもらいたいし。これは6月に録り終わったから、〈今年の6月のアナログフィッシュ〉。でも録り終わってからいろいろ見えてきて、今はすごく楽しいです」(下岡)。

 あえて分けるなら、目の前に見えるモノや感情をダイレクトに表現する佐々木の〈リアルな痛み〉と、ロマンティックでファンタジックだが内に怖さを秘めた下岡の〈軽やかな空想感覚〉との対比。それをサウンド的にとりまとめる斉藤の存在を加えて、独特の泣き笑いみたいな聴後感を呼ぶのがアナログフィッシュのおもしろさだ。楽しい。しかし深い。カッコいい。しかし怖い。ぐるぐる回って、最後にはやっぱりカッコいい。あなたのお部屋にもアナログフィッシュをぜひ一匹。不思議な生き物です。

PROFILE

アナログフィッシュ
佐々木健太郎(ヴォーカル/ベース)、下岡晃(ヴォーカル/ギター)、斉藤州一郎(ドラムス/ヴォーカル)から成る3人組。小学校の同級生だった佐々木と下岡が99年にデモテープ制作を開始。都内でライヴ活動を続けるうちに斉藤が加入し、現在の3人編成となる。2003年にファースト・アルバム『世界は幻』と、ミニ・アルバム『日曜日の夜みたいだ』をインディーでリリース。高い評価を得たこの2枚をコンパイルしたアルバム『アナログフィッシュ』で2004年にメジャー・デビューを果たす。『Hello Hello Hello』『BGM?』という2枚のミニ・アルバムが話題を呼び、2004年と2005年の〈フジロック〉にも出演。このたびニュー・アルバム『KISS』(エピック)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年09月29日 11:00

更新: 2005年09月29日 18:52

ソース: 『bounce』 269号(2005/9/25)

文/宮本 英夫