インタビュー

Death Cab For Cutie

メジャーに舞台を移そうと、彼らはなにも変わらない。メランコリックで叙情的で切ないほどにロマンティックな〈DCFCワールド〉の旅のプランはここからが本番だ!


 澄み切ったギターの音色と、聴き手に直接語りかけてくるかのような優しく穏やかな歌声……。ワシントン州ベリンガムで97年に結成。派手な話題性とは無縁に、純粋にその音楽のみで支持を獲得していき、いまやUSインディー・ロック・シーンを代表する存在となったデス・キャブ・フォー・キューティー(以下DCFC)が、アトランティックへと移籍。そして、通算5枚目となるニュー・アルバム『Plans』を完成させた。

 ついにメジャーに移籍!ということで、ここで思い切って変化を遂げた勝負作を届けてくるかと思いきや、そこはさすがにインディー・シーンで地に足を着けた活動をしてきた彼ら。マサチューセッツの農家と地元に近いシアトルの知人のスタジオでレコーディングしたという本作は、これまでと同様にメンバーであるクリス・ウォラ(ギター/キーボード)がプロデュースを手掛け、良い意味でこれまでと変わらない〈らしい〉作品に仕上がっている。

「あえて音を変えようとは思わなかった。今回のアルバムは、(メジャー・レーベルと契約したということは関係なしに)いまのDCFCを表した曲が集まった作品だと思うよ」(ニック・ハーマー、ベース:以下同)。

 シンセの音色に導かれてゆっくりと立ち上がる1曲目の“Marching Bancs Of Manhattan”から、徐々に波が広がっていくように、穏やかなサウンドと繊細なメロディーが聴き手の心に染み渡っていく。中盤の“Crooked Teeth”や“Your Heart Is An Empty Room”といった楽曲が放つ瑞々しい空気からは、気負いやプレッシャーといったものは微塵も感じられない。今作を制作するにあたって、メジャーからのリリースということを特別意識することはなかったのだろうか?

「確かにメジャー・レーベルと契約して、アルバムにかけられる制作費も多くなった。でもそういったことは意識しないで、いまの自分たちが作りたい音楽を作ろうと思ったんだ」。

 むしろ前作『Transatlanticism』のほうが、エモーショナルで開放感のある楽曲や音の感触の〈わかりやすさ〉といった点で、どちらかというとメジャー寄りだったのでは?と思えるほど。

「前作に比べると、歌詞やメロディーの面に重点が置かれていると思う。今作はバラードっぽい曲が多いけど、それはいまの僕たちから自然に湧き出たものを表現しただけのことなんだ」。

 これまでと変わらずに自分たちの表現欲求に忠実に作り上げた作品ではあるが、ブライト・アイズがビルボードの上位にチャートインするなど、インディー・ロックが一般層にも浸透しつつある現在、このアルバムに大きな注目が集まることは間違いないだろう。

「確かに最近、インディー・バンドがいままでにないぐらい注目を集めているよね。シンズとか、スプーンとか。僕たちがいっしょにツアーしたバンドを見ても、最初は小さな会場で演奏していたのに、いまでは大きなホールで演奏するほどの成功を収めている。なにかが変わってきているとは思うよ。正直、僕たちがその流れの一部になっているのは、本当に嬉しいことだよ」。

 ところで、アルバムとはまた一味違ったエネルギッシュなライヴにも定評のある彼ら。今年の〈サマソニ〉で会場を沸かせたのも記憶に新しいが、ぜひ単独での再来日を希望したいところだ。

「僕たち全員、このアルバムがリリースされるのを楽しみにしていたから、早くライヴで演奏したくてウズウズしているんだ。これからUSツアーを行う予定で、それが終わったら海外に行くことになるだろうね。おそらく来年になってしまうけど、日本は大好きだから、行けることを楽しみにしているんだ。本当に待ち遠しいよ!」。
▼デス・キャブ・フォー・キューティーの作品を紹介。

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掲載: 2005年09月29日 12:00

更新: 2005年09月29日 18:49

ソース: 『bounce』 269号(2005/9/25)

文/粟野 竜二