インタビュー

EBONY EYEZ


「〈女性ラッパー〉っていうレッテルを貼られるのはイヤ。シンプルに〈ラッパー〉として認められたいし、その条件は揃ってる。そう自負してるわ。ラジオに最適な曲も書けるし、ストリートのエッジも備えている。それを裏打ちするリリックも書ける。私はバトルの現場から来たのよ。フリースタイルも心得ているし、時代が求めるものも持ってるつもり。ポッと出の成り上がりじゃなく、自立した女性で、他の誰とも違う」。

 ネリーの登場以来、多くのラッパーとヒット曲を輩出しているセントルイス。そこから登場した女性ラッパー……とは不本意な注目のされ方なのかもしれないが、エボニー・アイズはそうした好奇の眼差しをも改めさせるアルバムを完成させたといえるだろう。完成までに丸1年かけたというデビュー・アルバム『7 Day Cycle』は、彼女ならではの観察眼に裏打ちされたトピックや、女性の立場からのオピニオン的な詞など、豊富な題材を元にした〈女性が味わう一週間の典型的な感情についてのアルバム〉となっている。そこではもちろん〈女性〉という部分のみが強調されるのではなく、いちラッパーとして男性ラッパーとも対等に渡り合えるだけの豊かなスキルも証明されている。トラック・ボーイズが手掛けた曲ごとの印象もさまざまで、彼女の高いポテンシャルが窺える仕上がりだ。

「やっていくうちにコンセプトが次々と浮かんできたの。似たような曲をやらないのは重要なポイントで、私のクリエイティヴィティーを知ってもらうために、コンセプトのしっかりした曲作りを心懸けたわ。リスナーの視点に立って〈何が聴きたいの?〉って自問もしてみたしね。“Dear Father”では、神様への手紙という形で、いま私の人生に起きている事柄を語っているの。とてもディープで個人的な内容だけど、みんなに〈あなたはひとりじゃない〉って伝えたかった。誰もが試練や苦難に直面するなかで、大事なのはどう乗り越えるかってこと。私の作品は自分自身の感情や経験、周囲の人々との関わりから生まれるの。私が見たものをみんなにも見てもらえるよう、情景を描き出して、心から語りたいのよ。現代を生きる女性たちの〈声〉として、女性なら誰でも共感できる事柄を語っているし、同時にそれを男性も理解して学んでほしい。私が代弁するのは、あくまでも普通の女性。人々が私のヴィジョンを理解してくれたらと願っているわ」。

 自身が見たものや体験したことがコンセプトの基盤となっているからこそ、曲のリアリティーが増しているというわけだ。彼女の曲は聴く人のさまざまな感情を刺激しそうだが、このアルバムがリスナーに与える影響についてもこう話してくれた。

「ひとつの曲がひとりの人間の人生を変えたり、救うこともある。女性の立場を代表して日々の思いを語ることは、私の使命だと感じているわ。例えば“Take Me Back”は、ラップするたびに〈なぜこの曲を書かなきゃならなかったか〉ってことをオーディエンスが思い出させてくれる。浮気症で無礼な男との腐れ縁についてラップした曲なんだけど、〈自分に相応しくないものを甘受する必要はない〉ってことを言いたいのよね。プライドと尊厳は誰にも奪わせない。自分を愛せないなら、他人にそれを期待することはできないでしょ。これは人種に関係なくあらゆる女性に共感してもらえるはずだし、それがアルバムの基本的なアプローチでもあるわね」。

 子供の頃からのニックネームでもあり、人から「瞳が綺麗だってよく言われる」ことからそのままアーティスト・ネームとなったエボニー・アイズという名前。その鋭い視線を通じて放たれた言葉の数々に耳を傾けるべき価値は十分にある。

PROFILE

エボニー・アイズ
セントルイス出身のラッパー。子供の頃からTVやラジオを通じて音楽に親しみ、やがてローリン・ヒルに憧れてラップを始める。ローティーンの頃にはGGBというグループで地元中心に活動。ハイスクールに進む頃には本格的にプロをめざすようになり、98年にナジアーというデュオを結成する。2003年にはソロ・ラッパーに転向し、デモ制作などを進める最中にトラック・ボーイズと出会う。2004年、J・クウォンのヒット作『Hood-Hop』に客演して脚光を浴び、キャピトルと契約。翌2005年にシングル“In Ya Face”でデビューを果たす。サントラ『XXX2』に収録された“Get XXX'd”への参加を経て、このたびファースト・アルバム『7 Day Cycle』(Capitol/東芝EMI)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年10月13日 17:00

更新: 2005年10月13日 18:48

ソース: 『bounce』 269号(2005/9/25)

文/高橋 荒太郎