インタビュー

JACKSON


 とてもダンス・フロアでかけられるような曲じゃないと思っていた“Radio Ca Ca”をクリスタルがプレイし、ヨーグルトがプッシュしていたのは、僕にとっては驚くべきことだった。オープニングからしてかなり変則的なビートだし、スネアが一定しはじめてからも、蹴躓いているような展開がいつまでも続き、なんとか調子に乗ったと思ったら、またしてもブレイクで元の木阿弥になってしまうような曲だったからである。ミスター・オアゾーにダフト・パンクのリミックスをやらせたようなこの曲は、しかし、彼にとっては7枚目となるシングル“Utopia”のB面に収められていた曲だったにもかかわらず、フレンチ・タッチとディスコ・ダブを繋ぐ重要な曲として、その存在感をどんどん強めていくことになった。

「たぶん、僕はブラック・ストロボの世代とTTCの世代の、ちょうど真ん中の世代だ」とするジャクソン・フォアジュが、7年ほど前にリリースした『Sense Juice EP』などは、あまりにもダフト・パンクの影響が強く、大して驚きはなかった。そう彼に告げると、彼もそれは自覚しているようで、「僕にとってのターニング・ポイントは、やはり“Utopia”を作るまでの2、3年の間に、ダンス・フロアから離れなくっちゃと思ったこと」が大きいのだという。自分でも「正直言って、正式なヴィジョンはなかった」ともいう彼は、“Utopia”に“Radio Ca Ca”をカップリングしてリリース。皮肉なことに、後者がワールドワイドなフロア・ヒットへと結びつき、イジャット・ボーイズのミックスCDにもフィーチャーされたことで、さらにその動きは加速している。

「“Radio Ca Ca”は1年半ぐらい前に、フランスでもDJの間で話題になっていたんだ」。

 そして、恐らくはそれがきっかけとなって、彼はまずエール“Alpha Beta Gaga”のリミックスを手掛け、すでにバークレーからのリリースが決定していたファースト・アルバム『Smash』を、フランス以外のテリトリーではワープがライセンスすることに決定する。

「アウトプットのパーティーでロンドンに行って、その時に“Utopia”を気に入ってくれた人がワープを紹介してくれたんだ。すでにバークレーと契約を結んだ後だったからね、無理かも知れないと思いながら、とりあえず行ったんだ! そこで社長のスティーヴ・ベケットに会って、話がいい感じで進んだから驚いたよ」。

 ジャクソンズ・グルメという名義でリリースされたシングルでは、まるでプリンスを意識したような音楽性だったりしたこともあったのだけれど、“Utopia”と“Radio Ca Ca”の成功を受けて完成したアルバムは、その両方の持ち味を存分に引き出した独特の仕上がりである。“Radio Ca Ca”を踏襲する“Rock On”などはもちろん、特に「ベルリンのミニマルDJに評判が良かったのは嬉しかった」という“Utopia”の路線が充実しているのは、アルバムならではといえる。

「“Utopia”のヴィジョンは、いつも変化していて、はっきりとしたイメージはいまのところないんだ。でも、ドリーミーだけど雲がかかったような雰囲気というのは、どうしても避けられない(笑)。わかんないけど、無意識にそうなっちゃうんだよ。教会のオルガンの音なんかをブッ飛んだテクノロジーの音楽にミックスしたり、っていうのが好きなんだよね」。

 ちなみにエールのリミックスは「ちょうど、アルバムが完成するころで、できるだけ早く自分のアルバムと、このリミックスを完成させなきゃいけなくて。エールが大好きだから、断りたくなくてやってみたんだけど、いつもやっている曲作りやプロダクションとは違う方法で作業したから、最終的に完成したトラックをいま聴くと、〈まだ途中〉って感じがする(笑)」だってさ。

PROFILE

ジャクソン
パリ出身のクリエイター。シンガーのポーラ・ムーアを母に持ち、15歳の頃から楽曲制作を開始。96年にパンプキンから初リリースを経験した後、98年にバークレーからジャクソン&ヒズ・コンピュータ・バンド名義で『Sense Juice EP』をリリース。フェミ・クティやフリーフォーム・ファイヴのリミックスなどを手掛けながら名を広めていく。2003年のシングル“Utopia”がB面の“Radio Ca Ca”も含めて多くのDJに支持され、M83“Run Into Flowers”やエール“Alpha Beta Gaga”のリミックスも高い評価を受ける。2005年にワープと契約し、8月にシングル“Rock On”を先行リリース。10月1日にファースト・アルバム『Smash』(Warp/BEAT)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年10月20日 14:00

更新: 2005年10月20日 18:15

ソース: 『bounce』 269号(2005/9/25)

文/三田 格