加藤ミリヤ
自分の言いたいことを言う。自分のやりたいことをやる。大人でも口と行動がなかなか伴わない、そんな難儀なことを念頭に置き、加藤ミリヤは生まれて初めてのアルバム制作に臨んだという。しかも、それを実現するために、自発的にアルバム制作のための企画書(!)を執筆。なんとも大人顔負けの実践力だが、『Rose』というアルバム・タイトルに始まり、各曲のテーマ/タイトル/希望プロデューサー、果てはジャケット撮影のカメラマンからスタイリストまで、自分ですべてプランを立て、周囲のスタッフにプレゼンしたのだそうだ。
その結果、デビュー曲“夜空”を手掛けたShingo.Sおよび彼を擁するクリエイター集団=3rd Productionsをはじめ、OCTOPUSSY、YANAGIMAN、Maestro-Tといった面々が本作に集結。トラックメイカーというよりは、メロディー作りにも意識を配れるタイプのプロデューサーが参加したことで、アルバムには、彼女の卓越した歌唱力を鮮やかに引き出すカジュアルかつスムーズなR&Bが多く並んだ。が、大阪発の奇才=BACH LOGICを迎えたタイトル曲“ROSE”だけは別。シンプルながらもザワザワじわじわと胸に迫ってくる扇情的なサウンドは、本作のなかでも特に耳を引く。また、自身のストーリーを歌った歌詞も印象的で、リリックには〈15の少女の決意〉というフレーズも出てくる。
「15のときに名古屋から東京に出てきて。デビューも決まって出てきたから、すっごい〈やってやるぞ!〉っていう気持ちがあった。上京するときの〈これからやっていくんだな〉っていう気持ちは今でも覚えてるし、そのときのその瞬間は大事だったと思うんです。で、アルバムまでの道のりは、そこから始まってるから。だから“ROSE”はとても大事な曲」。
15、16、17歳という、いわゆる思春期は、一年をとても早く体感する時期だ。周囲の環境はめまぐるしく変化するし、ともすれば、自分で自分の心境の変化にすら驚いてしまうような時期。だからこそ、悩みもあるし、戸惑いもあるし、くじけることもある。だけど、ひとまず、とにかく、前に進んでいかなきゃならない。加藤ミリヤは本作の至るところで、そんな年代特有のチョット不安定で、でも前向きな心の内面を、衒いのない素直な表現でありのままに描いている。彼女の歌詞の主人公は自分自身だが、それはクラスメイトにも当てはまる。彼女の歌詞は、同じ年代の女の子になら、どこかがきっと当てはまる。
「自分は女だし、女の子に共感されるのはもうあたりまえだと思ってるんですよ。自分のことをありのままに書けば、結果的に共感してもらえるだろうって。逆に男の人の共感を得ることは難しいです。だって、男の子の気持ちなんて全然わかんないんだもん(笑)」。
本作では、亡き父への想いを包み隠さず綴った力強いスロウ“STAR”にも注目。わずか17歳で、〈肉親の死〉という、ホントは表現しずらいことかもしれない題材を語った彼女。けれど、それを言うことで自分がすっきりするという。それが詞作の原動力とも。
「自分が詞を書きはじめたときって、日頃の鬱憤晴らしで書いてたから。書くことによって一瞬セラピーになる、みたいな(笑)。書かないと自分がどうにかなってしまう(笑)とか、そこまで大袈裟じゃないけど、それくらい自分のなかで詞を書くっていうのは日常的なことだし、なくてはならないものなんです」。
彼女の歌声はよく〈哀愁ある〉と形容されることがある。が、彼女の歌声の特性はそれだけじゃない。その声の奥底には、メンタル面から生じる力強さが、そこはかとなく、しかし、確かに根づいているのだ。10代が抱える心のブルーズを、リアルに歌える17歳。早熟な逸材は、素晴らしきデビュー・アルバムを完成させた。
PROFILE
加藤ミリヤ
88年生まれ、愛知出身。13歳でレコード会社主催のオーディションに合格してアーティスト活動を開始。14歳から作詞/作曲を始め、Reggae Disco Rockers“Cherry Oh! Baby”や童子-T“勝利の女神”などにゲスト・ヴォーカルとして参加する。2004年9月にシングル『Never let go/夜空』でソロ・デビュー。なかでも“夜空”はBUDDHA BRAND“人間発電所”をサンプリングした楽曲として話題となり、先行リリースされたアナログも即日完売する。同年11月に“Beautiful”、2005年3月に“ロンリーガール”とコンスタントにシングルをリリース。先行シングルの“ジョウネツ”が注目を集めるなか、ファースト・アルバム『Rose』(ソニー)を10月26日にリリースする。