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インタビュー

TIM FITE


「鬱屈としたフォーク・ミュージックから無意味なコメディー・ラップ、そして政治色の強い作品まで、これまでいろんな音楽を作ってきたよ」。

 そう語るのは、頭の回転がとてつもなく速くて、偏屈で、しかも理屈臭いティム・ファイトなるアーティスト。便宜上どうカテゴライズしたら良いものか、丸一日思案に暮れてしまいそうなタイプの音楽を奏でている。そんな男だからこそ今までに類を見ないファースト・アルバム『Gone Ain't Gone』を生み出したのだけれども……。

「悪いけど、君が言うそのカテゴリー分けや便宜性には賛同しないね。そういった考え方は君たちがセールスのために作り上げるものだからさ。僕が支持するのは音楽に対する理解力。だから真の理解力をもってカテゴライズされるなら、どんなジャンルで呼ばれても受け入れる。これは作りたい音を作った結果だ。よってただ〈音楽〉と呼びたいね!」。

 改めまして、その〈音楽〉なんですが、それだけだとイマイチ伝わりにくいので僭越ながらも解説させていただきます。80年代後半から90年代初頭の社会派ヒップホップ全盛期に思春期を過ごした彼は、後にハンク・ウィリアムスをきっかけに傾倒するようになるアメリカン・ルーツ・ミュージックやロックを、ヒップホップ的方法論で深く深く、執拗に深くディグったワケ。このようにカテゴライズしにくいジャンルは押し並べて〈オルタナティヴ〉と呼ばれてしまうわけだけど、彼も言うようにそんなチープな言葉じゃ片付けられないほど斬新で、過激な実験精神に満ちている。そしてその実験精神は、今作でついにひとつの到達点に達したのだ。

「セールになっていたレコードの山を漁りまくってサンプリングしてたんだ。そこから気に入ったサンプルを繋ぎ合わせて曲を構成し、その上に生楽器を重ね録りしたんだよ。使った楽器はギター、タンバリン、ウクレレ、チェロ、キーボード、折りたたみ椅子、トランシーバー、トラック、銃、骨、スパゲティ
ー、そして空気だね」。

 このようにして出来上がったサウンドにはアコースティック感が溢れており、そこにポリティカルな詞が乗ることで、極めて現代的なフォーク・ミュージック的色合いを見せる。

「いいや、僕はフォーク・ミュージックを作ろうと思ったわけではないんだ。僕にとってフォーク・ミュージックは、〈フォーク(人々)が作り出すミュージック〉」。

 ともあれ、この〈音楽〉に行き着くまでに彼はさまざまなジャンルを通過してきている。そしてその過程のなかには、リトルT・アンド・ワン・トラック・マイクのラッパーとしてレコード会社と契約に至ったことも。

「リトルTは生活費を稼ぐためのバイトみたいなもんさ。そんな仕事は誰だって辞めたくなるものだろ?」。

 ヒップホップ・シーンに対して嫌気が差していた彼は、ほどなくしてデビューの話を辞退している。

「シーンというものは完全なる受身体制で、とある場所に定住しているような状況と言っても過言じゃない。現在のヒップホップが抱えている問題は、シーンであることに気を取られすぎて〈ムーヴメント〉になり得ることを忘れてしまっている点だよ」。

 それはまったくの同意見! しかし彼が今作に行き着いたという意味で、ヒップホップは新しい可能性を世界に知らしめることにもなる。『Gone Ain't Gone』はまさに超が付く問題作なのだ!

 それにしてもティム、君はどうにもこうにもまわりくどいヤツだね。

「コマーシャルなものは好きじゃないんだ」。

 あぁ、なんか納得。

PROFILE

ティム・ファイト
1980年生まれ、ペンシルヴァニア出身のシンガー・ソングライター/クリエイター。〈血液がない状態で生まれ、マシーンによって血液を与えられた〉というキャラクター設定。10代前半でヒップホップを聴き始め、やがてラッパーをめざすようになる。同時期にブラック・パワーについて本格的に勉強するなど、社会問題にも関心を寄せる。やがてリトルT・アンド・ワン・トラック・マイクのラッパーとしてデビュー直前まで漕ぎ着けるも、音楽業界に嫌気が差して辞退。その後、自宅のアパートでサンプリングやプログラミングを用いて楽曲制作を開始。その一部が関係者の耳に留まってアンタイと契約。このたびファースト・アルバム『Gone Ain't Gone』(Anti-/ソニー)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年10月27日 15:00

更新: 2005年10月27日 17:17

ソース: 『bounce』 270号(2005/10/25)

文/冨田 明宏