DAMIAN "JR.GONG" MARLEY
ダミアン・マーリーa.k.a.ジュニア・ゴングa.k.a.ヤンゲスト・ヴェテランa.k.a.レゲエのロイヤル・ファミリー=マーリー家の末っ子。追加情報:マイクを握る5人兄弟のうち、唯一のDJにして(恐らく)いちばんハンサム。補足情報:母親は76年の〈ミス・ワールド〉で、ボブ・マーリーが他界した時、ダミアンはまだ3歳にも満たなかった。だから、優れたインタヴュアーをめざす以前に良心的かつ常識的人間でありたいと願う筆者は、ボブのことは一切尋ねない。っていうか、ムダなのよ、ボブのことを訊いても。お兄ちゃんたちのインタヴューではそれなりにトライしたけど、模範解答しか返ってこなかったし。
それはさておき、“Welcome To Jamrock”はレゲエを飛び越えて今年を代表する一曲になりそうだ。
「〈いい曲が出来た〉という手応えはあったけど、ここまでヒットするとは予測していなかったよ。今の状況をどう思っているかって? 嬉しいに決まっているだろ! このために俺たちはずっとがんばってきたんだから」。
この場合の〈俺たち(=We)〉は、ラスタ的に主語を複数形にしているというよりは、二人三脚で走ってきた次兄のスティーヴンを指すはずだ。セカンド・ソロ・アルバムにあたる2001年作『Halfway Tree』については、「俺が成長して、一人前の男性/アーティストとしてやっていけること、それから自分で作詞ができることを示した最初の作品だ」とのコメント。つまり、96年の『Mr. Marley』は自分で書いていなかったことになる。まぁ、17歳だったし。それから約10年後にリリースされたのが本作『Welcome To Jamrock』だ。
「今までといちばん違う点は、すべて俺のアイデアからスタートしていること。スティーヴンがそれを磨いていっしょに形にしたんだ」。
〈ジャッキー・ミトゥーのフレーズを使ったのもあなたのアイデア?〉と念を押したところ、「ジャッキーも、“Welcome To Jamrock”のサンプリングも、イーク・ア・マウスの声を使ったのも、俺のアイデアだ」と胸を張った。
マイアミ生まれで現在もマイアミ在住だが、パトワのアクセントがはっきりあり、おまけに歌声と違って普段の声は幼くてかわいらしい。ステージ・パフォーマンスや作詞能力は27歳とは思えないほど成熟しているので、このギャップは新鮮だ。リリックの深さ、難解さは対訳をしているうちに髪が絡まってドレッドになっていきそうな勢い。
「ハハハ。まず、がんばってくれてありがとう。俺の作詞スタイルにはヒップホップの影響が大きい。ダンスホールのアーティストより、ラッパーのほうが細かい描写にこだわってリリックを作るでしょ? 2パックやスヌープ・ドッグ、Mrチークス、ノトーリアスBIGたちから学んだことは多い。それから、レゲエのオールド・スクールDJも参考にしている。フックもコーラスもなくて、彼らがひたすらフリースタイルみたいに言葉を紡ぐタイプの曲はよく聴いている」。
同じくリリシストとして鳴らすルーツのブラック・ソートやナズの客演も、たっての希望だったとか。〈ヤンゲスト・ヴェテラン〉の定義は、「俺のオールド・スクールなDJスタイルを指しているのが1つ。それから、俺は肉体こそ若いけど内面は老成している、というのが2つ目だ」とのかっこいい答え。
それなのに、昔からそうだったのかと確認すると、「うーん、そうでもないや。ヘヘ」だって! このアンバランスさが今のダミアン・マーリーの魅力かも知れない。しかしながら、サウンドのバランスは完璧。ダンスホールからルーツまでを内包した土台に、R&Bやヒップホップのフレイヴァーを随所で効かせた堂々たるレゲエ・アルバムだ。タイトル曲同様、今年の代表作になって然るべき仕上がり。レゲエの神様の末っ子から、すべての音楽ファンへのプレゼントがコレ。聴かなきゃ何も始まらないので、そのつもりで。
PROFILE
ダミアン“Jr.ゴング”マーリー
78年生まれのレゲエDJ。父親はボブ・マーリー。91年にサード・ワールドのキャット・クアーの息子らと共にシェファーズを結成し、同年〈レゲエ・サンスプラッシュ〉や〈レゲエ・バッシュ〉に出演。96年には初のソロ・アルバム『Mr. Marley』をリリース。以後、兄のスティーヴン、ジュリアンと共にプロダクション・チームを設立し、イヴなどのプロデュースを手掛ける。2001年にセカンド・アルバム『Halfway Tree』をリリース。同作はグラミー賞でベスト・レゲエ・アルバムを受賞する。2005年に入って“Welcome To Jamrock”が大ヒットを記録。このたび、ニュー・アルバム『Welcome To Jamrock』(Ghetto Youth/Tuff Gong/Universal/ユニバーサル)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2005年11月04日 14:00
更新: 2005年11月17日 17:41
ソース: 『bounce』 270号(2005/10/25)
文/池城 美菜子