tobaccojuice
「中学生の時に友だちから〈ボブ・マーリーっていうのがカッコいいらしいぞ〉みたいな話を聞いて、CD屋さんへ買いに行ったんですよ。だけどなぜか間違えてエルモア・ジェイムスのアルバムを買っちゃって。でも再生したら、あのビビビビビッていうイントロが流れてきて〈なんだ、このエネルギーは!?〉って思ったんです。それがブルースとの出会い」(松本敏将)。
ブルースやレゲエやカントリーなどを絶妙なバランスで融合した、あまりにも独特かつ心地良い音楽性で人気も評価も急上昇中のtobaccojuice。そんな彼らが、なんと今年2枚目のフル・アルバムとなる『幸せの海』を完成させた。
「1枚目のアルバムよりもヴァラエティーに富んだ楽曲を収録することができた。前作は癖のある曲が中心だったけど、今回はわりと聴きやすいタイプの曲が多くなってて。だから、たくさんの人に届くんじゃないかな」(脇山広介)。
そんなわけで、今作はファースト・アルバム『ピカピカサンセットレインボーブルース』と比べるとグッと親しみやすくて幸福な気分に満ちた仕上がり。だからして、前作のひとつの特徴となっていた〈怒り〉〈嘆き〉〈毒〉といった要素が影を潜めているように感じられる。しかし実際には……。
「怒りがベースにあるっていうのは、このアルバムも同じ。世界に対して一言モノ申したい気持ちっていうのも、たっぷり入ってますしね。ただ今回は、そういうのを深い場所に沈めてあるんです。聴いてる人がだんだん気持ち良くなってきた頃に起爆するように仕込んである(笑)」(松本)。
よく聴けば、どの曲の根底にも〈世界は悲惨なジョークみたいに続いていきやがるぜ〉といった認識が脈打っていることがわかる。そんな作品のなか、唯一はっきりとダークサイドが描かれているのが、このアルバムのハイライトのひとつである“死神電車でロックンロール”。ここでは〈人生なんて/終わっちまえばただの夢〉だから〈ブルース/叩き続け/ロックするんだ〉と歌われる。
「つまり〈がんばれ〉ってこと。単純に言えば〈俺もがんばるから、みんなもがんばって、なんとか平和な世界にしようぜ〉っていうメッセージです……なんて自分でもバカなこと言ってるなって思うけど(笑)。でも本気でそれを伝えたいんだからしょうがない。はっきり言って、この世界は完全にイカレてるじゃないですか。そんなことは誰でも自分の魂に耳を澄ませば気づくと思うんです。それに気づいたら少しでもいい方向へ変えていこう、と」(松本)。
そのようなメッセージが、前述のようにブルースやレゲエやカントリーのエッセンスをギュッと凝縮した、ゆったりと気持ちのいいサウンドに乗せて放たれるのだ。
「昔からFENをよく聴いてたから、そういった音楽が自然と身体に染み込んでるんだと思うんですけどね」(大久保秀孝)。
「大久保くんの家で、みんなで酒を飲む時のBGMは基本的にハワイアンだし。それに俺は高校生の時にブルーグラス・バンドを組んでた経験もあるし」(松本)。
ユルユルしていながらも、しっかりグルーヴ感のある演奏。嘆いているようで本当は前を見据えている詞世界。スモーキーなムードの中にピュアさを隠し持ったヴォーカル。それらの抜群なサジ加減こそが、tobaccojuiceの武器なのである。
「レゲエもブルースもロックンロールも大好きなんですよ。だからそれぞれを徹底的に追求した音楽をやることだってできるんですけど。でも、そのままのものをやっても仕方ないじゃないですか。偉大な先輩たちの真似をするんじゃなくて、やっぱりオリジナルなものをめざしたいんです。それらを組み合わせて、tobaccojuiceならではの音楽を生み出していきたいんですよ」(大久保)。
PROFILE
tobaccojuice
99年、松本敏将(ヴォーカル/ハーモニカ)を中心に、大久保秀孝(ギター)らの不定メンバーで結成。2002年に脇山広介(ドラムス)が加入し、現メンバーが揃う。都内を拠点に活動を展開し、主催イヴェントなども精力的に行う。2003年にミニ・アルバム『喜びがやってくる』でデビュー。2004年に、髭やアナログフィッシュなどが参加したコンピ『カウボーイ』への参加を経て、ミニ・アルバム『青い鳥』でメジャー・デビュー。2005年に入って1月にファースト・アルバム『ピカピカサンセットレインボーブルース』をリリース。さらなる話題を集めるなか、セカンド・アルバム『幸せの海』(キング)を11月2日にリリースする。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2005年11月04日 14:00
更新: 2005年11月04日 17:59
ソース: 『bounce』 270号(2005/10/25)
文/大野 貴史