ミドリ
実体験やったら実体験のことをしたいんです
「セーラー服の女の子がパンツを見せながらライヴをやるバンドがある」と聞いたときは、エーッ?と思った。メイド喫茶じゃないんだから。チラシには〈メス豚の姿を借りたビッチ〉とある。うーん……、色モノ? しかし、界隈では〈あふりらんぽ、ZUINOSINに続く関西ゼロ世代〉との噂。どうにも気になって、今年の6月に初めてライヴを見に行った。
ステージに現れたのは、3人の男と超ミニのセーラー服を着たおかっぱの女の子。ハードコアと見まがうヘヴィなドラムにアップライト・ベースと鍵盤が絡み合い、混沌としたドラマチックなサウンドが展開される。ロックなのにエキゾチック。直情的なのにとらえどころがない。例のセーラー服の女の子は、だんじりのようなリズムにのせて不思議な旋律を口ずさみながら「わっしょい! わっしょい!」と客席にダイブ(当然、丸見え)。と思いきや、ものすごいデス声で絶唱。その次の瞬間、今度は〈大阪のJUDY AND MARY〉の名に恥じぬ、真っすぐな恋心を綴ったラブソングを歌い出す……。その刹那な存在感たるや、色モノどころか見事にど真ん中。舐めてかかったらウルッと泣かされる。こりゃ〈あの子はちょっと手強いぞ!〉
「ホンマはあんまり前に出たくないんですよ。ボク(※彼女は自分をこう呼ぶ)は自分がいちばん目立つ状況があんまり得意ではなくて、恥ずかしいっていうのと根が暗いのと、人に何かを言われるっていう行為がいちばん嫌いなんで……。でも、そうしたら自分がしたいことはできひんし。まあ考えてもアレなんで、エイッてやってます」(後藤まり子/ヴォーカル、ギター)
2003年頃、後藤まり子が小銭(ドラム)を誘って結成されたミドリ。その後、メンバーチェンジを繰り返し、今年6月年に後藤と小銭とハジメ(ピアノ)劔(ベース)という現在の形になった。
「もともと歌うのは好きやったんです。ミュージカルの『CATS』とか好きやったし、うちにお兄ちゃんのギターもあったんで。初めて組んだバンドは、JUDY AND MARYのコピーバンド。ホンマにああいうのが好きで、でもミドリを始めてから一時期、元BOROのギターの人の店を手伝ってて。すごいサンタナに似てる人で、足でウッドベースして手でギター弾いて、リズムマシン鳴らして歌ったりとか、もの凄い人で。そこでいろんなレコード聴いて、イッキに広がって行った感じですね。ジャニス・ジョップリンってすごいなとか。うまいんか下手なんかようわからんし、変な声やし、おっさんみたいやし。でもガーッと惹かれるもんがあった」(後藤)
『CATS』にJUDY AND MARYにサンタナにジャニスとは……。普通なら食あたりを起こしかねない喰い合わせだが、それを正面から受け止め血肉化してしまう純粋さと猥雑さが後藤まり子の、そしてミドリの他にはない武器だろう。
「後藤まりこは常々、極端なものが好きなんですよ。すごいデカイとかすごい小さいとか」(劔)
「ゼロか100かみたいな、相手が興味もってくれなかったら要らないんですよ。だからセーラー服も最初はスカート短かったら誰でも見るやろ、みたいな発想で。でも女子高生ってエロイじゃないですか? エロで下品でよくわからない生き物で、ボクは化粧もまったくしないし、スカートも履いたことなかったから、そういうもんに憧れとかコンプレックスを持ってるところがあって。そういうものとデスみたいな重い音楽がパーンって一緒になったら、どうなるんやろ?と思って」(後藤)
なるほど。「なんもわからん なんもわからん どうしようもないねん」といった、若い女の子だけが持ちうる混沌。残酷なまでの純粋さや刹那さを、どこかクールに眺めながら具現化する後藤まり子とその下僕となることを潔しとした男達の織りなす、美しくもギリギリのピラミッド。それがミドリなのだ。
「ホントに誰かが言ってたんですけど、すごい性急な感じがして今にも解散しそうに見えるって。そういうキワドさは確かにあります」(劔)
「なんか普通にライヴやって、見られて、終わったら拍手があって……みたいなライヴはCDでええ。実体験やったら実体験のことをしたいんです。演奏者が100の力でやっても温度差ってどうしてもあって、お客さんには100には見えないんで、それを200でも300でも出して、いかに同じ場所に持ってこさすか。やっぱり体験させたいんで」(後藤)
11月25日にリリースされる『ファースト』は、そんな彼らの尋常ならざる勢いが奇跡的に音盤化された一枚。これぞバンド! これぞファーストアルバム! コレでグッと来たら、ぜひともライヴに足を運んで欲しい。
ミドリ『ファースト』
1. わっしょい。
2. お猿(試聴する♪)
3. ああ嫌
4. A.N.A
5. ロマンティック夏モード(試聴する♪)
6. POP