こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

FORT MINOR

かねてからヒップホップへの愛情を示していたリンキン・パークのマイク・シノダが、ついに本性を現した。バンドでは実現し得なかったエモーションの発露を体感せよ!!


リンキン・パークのMCとしてグループのヒップホップ的側面を担ってきたマイク・シノダが、ソロ・プロジェクト=フォート・マイナーを立ち上げると共にアルバム『The Rising Tied』を完成させた。リンキンの諸作だけでは完全にわかり得なかった彼のヒップホップ観は、本作の登場によってグッと明確になってくるに違いない。

「リンキンを始める前の僕はヒップホップ・プロデューサーだったんだけど、2年ぐらい前からその頃の本質に戻らないといけないような気になってきてね。真のヒップホップを作ることが恋しくなってきたんだ」。

 マイクのヒップホップ・センスが大いに発揮されたリンキン作品としては昨年のジェイ・Zとのライヴ・セッション『Collision Course』が記憶に新しいところだが、本来の拠り所であるヒップホップへと向かいつつあった彼のモチベーションは、あの歴史的共演を経て一気に爆発することになる。

「『Collision Course』はストレートなヒップホップを作る楽しさを思い出させてくれた。リンキンだとヒップホップは他の音楽とスペースを分け合わなくちゃいけないけど、僕はもっとヒップホップにスポットを当てたかったから自分の音楽を作ることに決めたんだ」。

『Collision Course』のリリース時、マイクは「ジェイの姿勢やアイデアにとても感銘を受けた」と語っていたが、それが彼にとってどれだけ刺激的な経験だったかは、本作のエグゼクティヴ・プロデューサーをジェイ・Zに依頼していることにあきらかだと思う。

「曲の方向性が散らばったらアルバムの一貫性が失われると思ってね。僕は最初から最後までアイデンティティーがあるレコードが好きだから、ジェイにサポートを頼むことにした。彼は用意したラフのなかから良いものを選ぶ手伝いをしてくれたんだ」。

 最高に頼もしい助っ人を得て、マイクが今回めざしたのは〈オーガニックなヒップホップ・アルバムを作ること〉。そのあたりの感覚がもっともわかりやすく打ち出されたものとしては、彼が「パブリック・エナミーやウータン・クランのようなビート」と紹介してくれた先行シングルの“Believe Me”がある。

「“Believe Me”は『The Rising Tied』が聴く価値のあるアルバムになるって思わせてくれた最初の曲なんだ。いまのヒップホップを聴くと大半がプログラムされた音楽をベースにしてるけど、僕はそういった部分を少なくしたかった。みんなコンピュータでアルバムを作ることに慣れてしまって、〈完璧じゃない曲〉の良さを忘れちゃってると思うんだ」。

 その“Believe Me”にはリンキンが主宰するマシーン・ショップ入りしたスタイルズ・オブ・ビヨンドが参加しているが、他にもジョン・レジェンドやルーツのブラックソート、「“I Used To Love H.E.R.”以来のファン」というコモンの客演があったりと、こうしたゲストの人選からもマイクの理想とするヒップホップ像が透けて見えてくるんじゃないかと思う。

「『The Rising Tied』が僕のヒップホップへの愛情を上手く伝えられたらいいね。今回のアルバムは作るのが楽しかったし、いまは凄く推進力がある。新しい音楽を作るのに夢中なんだ」。

 フォート・マイナーを通じて、マイクは確実に何かを掴み取ったようだ。ここでの成果がリンキンの次作にどのような形で反映されることになるのか、注目したい。

▼『The Rising Tied』に参加したアーティストの作品を一部紹介


スタイルズ・オブ・ビヨンドの2003年作『Megadef』(Blackberry)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年12月01日 16:00

更新: 2005年12月01日 18:30

ソース: 『bounce』 271号(2005/11/25)

文/高橋 芳朗